重盛 牧夫氏
「おそらく今シーズンで最も期待の大きかった第66回定演だが、思ったより客席が空いていたのはちょっと予想外だった。前回の近藤氏の登場では立見まで出たのに、バックステージは誰もいない。今回はどうしたのだろう。
さて、「フィガロ」。アンコールは別にして、正規のプログラムに上がるのは初めてだろうか。珍しくザンデルリンク氏が暗譜で振るので、あれっと思ったのだが、さすがに振り慣れているのだろう。コントラバスが6人、チェロも7人でいったいどうなることかと思ったのだが、案に相違して見事な出来栄え、弦の厚みが充分で、かつ「フィガロ」らしい軽い演奏が素晴らしい。テンポ設定とオケのサイズが抜群のバランス、ばっちり合った演奏と言える。あまりにもポピュラーなため、誰がやってもそれなりに聴ける曲ではあるが、久々に「名曲」の名演奏に接することができた。
近藤氏はショパン(2回)、ラフマニノフに続く4回目の登場。過去3回全く期待はずれだったので、今回はどのように変貌しているのか最大の興味だったが、全くの不発、今までで最も悪かったのではないか。ホールの音響がピアノという楽器に対して厳しいものであることは確かだが、それにしても極端に悪い。私自身、楽器は演奏しないので理由はわからないが、ソロ部分は何とか我慢すれば聴けるにしても、なぜオケとのハーモニーがあれほど悪いのか、本当に首をひねってしまう。過去2回の「皇帝」(ソロはワルター・ハウツィッヒ、大河内玲子)に比べ、今回はオケが格段に充実していただけに、残念としか言いようがない。プロフィールにあった「華麗なテクニック」はいざ知らず、「透明感のある音」というのはCD販売のための誇大広告としか思えない。アイドルとしてもてはやされ、実力不相応な人気のために消えていった音楽家がいかに多いことか。氏の演奏の好き嫌いによって評価は分かれることは充分承知しているが、「音」ではなく、もっともっと「音楽」を勉強してもらいたい、というのが素直な感想だ。
なお、アンコールのバッハについては、私自身はまだしもかなと感じたが、一緒に行った家内は「あれならやらないほうがまし。」とのコメントだった。蛇足ながら付け加えておく。
メインのドヴァルザーク、これも「フィガロ」同様スコアなしで振るザンデルリンク氏の意気込みが、見事にはまった演奏。この8番は「新世界」で時折感じるような冗長さが全くなく、私自身大好きな作品である。ボヘミアの民謡性と、弦の国「チェコ」を代表する曲だけに、演奏するオケは大変だろうが、今回は完璧と言ってもいいと思う。
常にも増して充実した弦、その上の現れる管楽器群の冴えた響き、各パートの強弱のバランスの良さ等、今シーズン最高の出来栄えではないか。そして何よりもあの第3楽章、冒頭の「哀愁のメロディー」がものの見事に決まった瞬間、本当に込み上げるものがあった。コンマス以下、第一ヴァイオリンの面々に心からのエールを贈りたい。また、特に指名での起立はなかったものの、指揮者も最大の賛辞を贈っていたフルートの末原氏も最高。
滅多に見られない、ザンデルリンク氏の満足した笑顔が印象的だったが、無理矢理アンコールに引きずり込んで、第3楽章を演奏したオケの面々、「聴くものも、演奏するものも満足できる音楽」を見事に実践したシンフォニカーに感謝しておきたい。」