大阪シンフォニカー 第69回定期演奏会
日時:2000年7月6日・木 開演:19時00分
会場:ザ・シンフォニーホール
出演:指揮/曽我大介 フルート/末原諭宜
エネスコ/ルーマニア狂詩曲第2番作品11-2
イベール/フルート協奏曲
ベルリオーズ/幻想交響曲作品14

金光文和さん
指揮は曽我大介。大阪出身である売り出し中の彼の演奏に接するのは5年振り。前回は、当時29才の彼が音楽監督を務めいてたルーマニア室内管弦楽団(トランシルヴァニア・ヴィルトオーソ)の大阪公演。ザ・シンフォ二一ホールの2階席から見たモーツァルト交響曲第29番の颯爽とした指揮振りが瞼によみがえってくる。
大阪シンフオニカーの公演は、前回の68同定期公演に続いて本年2回目。1階のG−20席で聴いた1月前の園田高広とのブラームスの名演が、まだ耳に生々しい。外来のオーケストラは要らないと思ったほどのピラミッドバランスのヨーロッパサウンド。本目のソリスト末原さんは、私にとって、テレマンアンサンブルで活躍されていた頃のイメージが強い。夙川カトリック教会でのバッハをはじめとする古典派の演奏のイメージだ。
第69回定期演奏会のプログラムはベルリオーズを中心とした1920世紀の作曲この顔合わせで聴くこのジャンルの初体験。・・と、いうわけで本日の定期演奏会を、チケット(K−17席)を手にしたときから、心うきうきと楽しみに迎えることができた。
ユネスコ:ルーマニア狂詩曲第2番作品11−2の冒頭の分厚いうねるような弦楽譜の響きを耳にした時、この瞬間に会場に居られることの幸せを実感した。指揮者が聞き事に届けたいと思った音に包まれる心地よさだ。バブアゼ氏をはじめ、弦楽器の各セクションのメンバーに拍手。ダブルベースのトップにオペラハウス管弦楽団の増田氏(本日の客演主席)を見るのも楽しい。客演主席は普段は別の楽団で活躍している思わぬ人を見つける楽しみと、楽壇内の交流が感じられる楽しみとがある。是非、続けてほしい。
イベール:フルート協奏曲第3楽章で、アンサンブルを大切にする末原さんのフルートと、弦ピチカートに乗ってのファゴット、クラリネットとの掛け合いの響きの美しさが印象に残った。バッハの時と少し違う、ソリッドだが色彩にあふれたフルート。
幻想交響曲は、来日オーケストラの名演が喧伝されているが、今日シンフォニカーの熱演は、ずっと耳に残ると思う。第4楽章終了時に拍手が起きたが、違和感を感じなかった。エネスコでは曲の余韻を大切にして、見事に間のあいた拍手を送ったシンフォニカーの聴き手から自然に起きた拍手だった。全メンバーを見渡しながら心の中で同感の拍手。
ルーマニアを始め、ヨーロッパでキャリアを積んでいる曽我氏のリードから引き出されたシンフォニカーの演奏からは、適切適切なたとえとは言えないが、タンノイなどのヨーロッパ系のスピーカーのサウンドに感じるような香気を感じる事ができた、フルオーケストラを率いて、過不足無く自分を語ることのできる才気。背中が大きく見える指揮者だ。
関西のオーケストラは今、それぞれ聴いて楽しい。大阪シンフォニカーでいうと、チケットを購入している11月のプッチーニが今から楽しみだ。

岩川 英司 さん
僕が知っているだけでも9つのプロ・オーケストラが乱立する東京ほどではないが、大阪にも4つのオーケストラが活動している。その全ての団体のコンサートに通うのは、時間的にも経済的にも不可能で、大阪シンフォニカーの演奏に接するのは年一回のチャリティーコンサートの時ぐらいだった。今年5月のその演奏会がとても良かったので、今回の定期演奏会を聴いてみたくなった。
 指揮の曽我さんは、特にルーマニアで活躍している人だそうで、今日のプログラムも同国出身のエネスコの曲で幕を開けた。
エネスコの「ルーマニア狂詩曲 第1番」は弦にジプシー風のフレーズが頻出する親しみやすい曲だったが、第2番の方は打って変わって地味な曲。パンフレットにある曽我さんの解説によると、「前者は祭りを表し、後者は大自然を表現している」とのこと。重厚な弦の旋律が醸し出す重い曲想が最後まで続く。オーボエを始めとする木管楽器の音が、弦と低音金管楽器の厚い幕に遮られてしまったようで、客席からはこもって聞こえたのは残念。
 イベールのフルート協奏曲のソロは、当オーケストラ首席奏者の末原さん。著名なソリストを呼ぶのではなく、団員の一人に定期演奏会で活躍する機会を与えるのは、大事な事だと思う。しかし聞き手としては、どうしても協奏曲の独奏にはきらびやかで圧倒的な名人芸を求めてしまう。曲がフランス物ときてはなおさらだ。その点で今日の末原さんのソロは、物足りなかった。音色が地味であまり明るさがない。1、3楽章での速く細かいフレーズでも安定感のあるテクニックで、管楽器との掛け合いや弦との絡みは、日頃演奏を共にしているだけあってさすがに息があっており、室内楽的なアンサンブルが楽しめた。しかし特に2楽章のアンダンテではもっとオーケストラ全体を引っ張るような主張の強さが欲しかった。
「幻想交響曲」は理詰めで丁寧な演奏だった。しかしこの曲の演奏としては詰まらない。1楽章ではティンパニーの痛烈な一撃ばかりが耳についた。2楽章のワルツも、テンポの揺れもあまりない大人しいものだった。長い長い3楽章は、誰の指揮で聞いても僕は持て余してしまうのだが、ここも奇を衒わずに丹念に曲を進めてゆく。待ちに待った4楽章の「断頭台への行進」もまだまだ余力を残した演奏だった。そのため、終楽章ではこれまでにない力強い迫力ある音量を楽しむことができた。

左から敷島鐵雄事務局長、敷島博子楽団代表、フルートソロ末原諭宜さん
右は幻想のソロで大活躍潮見さん


コンサートが無事終了しました。アシスタトコンマスの茂木さん、指揮者の 曽我さん
右端がコンマスのゴギさんです。


安田裕隆さん

狂おしいほどの若さと情熱で彩られ、各パートともすさまじい集中力でもって演じきられた幻想交響曲だった。 初顔合わせでもあり、期待半分と不安半分だったのだが、それは杞憂に終わったようだ。 第72回の定期演奏会では、ザンデルリンクの十八番であるブラ4を振るとのこと。 今からこの曲をどのように料理するのかが非常に気になるところである。
さて堂々と登場した曽我さん。 いかにも自信たっぷりで気合十分。 このオケとの初めての演目に、得意とするルーマニアの曲。 しかも派手で見栄を切れるような1番ではなく、渋い2番をぶつけてくるあたりにも並々ならぬ自信を感じる。
冒頭から、おおっ、と思える豊かな弦の響きで聞き手の心をぐっと掴んだ。 そしてまだ見たこともないルーマニアの広大な草原に引き込み、こちらの心の視界がパァーと広がるようだった(個人的には6年も生活した帯広郊外の草原の光景が重なったのだが、そのようなものなのだろうか?)。 曲の前半は花石さんの叩く優しく的確なティムパニのリズムでこの曲が支えられ、次いで小谷さんのコールアングレのほのかに甘く切ない音により彩りが増し、最後のザザさんの素朴なヴィオラの音で締めくくられていた。 それぞれに素晴らしい演奏であったと思う。 が、その反面どこか表層的だったようにも思ってしまった。 コントラバスが6本あったが、これがあまり響いてこない。 座った場所のせいかとも思ったが(R列26番で2階席がかぶる直前のところ)、以降の曲では十分に響いてきていたので、描写音楽として(解釈として)抑えていたのだろう。 前回のザンデルリンクの演奏がまだ耳の奥に残っているので、深みに欠ける、と言ってしまうのはちょっと酷な気もするのだが。
次に、首席の末原さんをソリストに迎えたイベールのフルート協奏曲。 団員から暖かく迎えられた末原さんは黒シャツに黒ズボンという黒装束。 胸の赤いチーフがワンポイントというお洒落な出立ち。 曲は軽やかな第1楽章、もの哀しい第2楽章、おどけたような第3楽章と、冒頭こそ硬さが目立ったように思ったが、テクニカルな難しさをまったく感じさせずに演じきったのはさすがだと思った。 末原さんのフルートは、抑制された響きで、誠実な音だったように思う。 特に第2楽章のノスタジックな演奏が印象に残った。
伴奏するオケも、やはり仲間を盛り立てるためか、ソロと対峙するような感じはなく、誠実な伴奏だったのではないだろうか。 ソロ・オケと一体となった演奏に、終演後は会場から、またオケからも暖かい拍手に包まれていた。 しかし反面イベールらしい色彩感には乏しいように感じたし、どことなく一本調子であったようにも思う。 やはり席の関係かもしれないが(ホールの後ろの席では微妙なニュアンスは感じられないし)、いずみホールあたりで、コントラバス2本程度の小編成で聴けたらよかったのかもしれない。
幻想交響曲。 ベートーヴェンの第9からわずか6年後の作品とは思えない斬新な曲である。 そのため数々の録音もあり、いわば手垢にまみれたような曲を、曽我さんがどのように料理するか、それが今回の演奏会の狙いであった。 そして結論として、各パートとも熱演を展開し、狂おしいほどの若さと情熱によって演じきられた素晴らしい幻想交響曲だった。 単に若々しい... というのは予想がついていたが、それを遥かに上回る大熱演であった。
第1楽章の冒頭こそオーソドックスに始まったが、次第に緊張感が高まり、ダイナミックな音楽に変貌していった。 中でも非常に印象に残ったのが、序奏部が終わりヴァイオリンとフルートが固定観念を示す後ろのコントラバスの動き。 ここでは不安をかきたてるように断続音を奏でる部分なのだが、コントラバスが一体となって(まるで1本のコントラバスのように)ザンザンザンと引き締まったリズミカルな音に仕上げられていた。 第3楽章でも思ったのだが、曽我さんの元では弦楽器の各群がそれぞれに雄弁に語る場面が多いようである。 これは曽我さんがコントラバス科出身であることにもよるのだろうか。
第2楽章。 残念ながらこの楽章は個人的には早すぎたように感じた。 ここはワルツなのであって、もう少し洒落っ気ももたせ、途中のテンポを大きく落とすなどして欲しかった(これはバルビローリの演奏による影響が非常に強いのだが)。 すると楽章末の狂乱ももっと引き立ったのではと(少々偉そうなのだがそう)思った。 ともかく足早に過ぎ去ったような印象だった。
逆に第3楽章は対比されたようにゆったりとし、小谷さんのコールアングレとバンダの左古さんのオーボエの絡みが見事だった。 テレビカメラで合わせていたようだ。 (話は横道にそれるが、オーボエの前首席の前川さんと小谷さんのコンビは絶品だった。 以来ご両名のファンとなり、小谷さんが活躍されると嬉しい)。 ところでこの楽章の終結部では、男性打楽器奏者が4人が寄り添うようにして横一列に並び、2個のティムパニを叩くのは見ていて壮観。 しかしちょっとユーモラスな感じもした。
さて第4楽章の開始前、ファゴットの藤崎さんが笑っているのがやけに印象的。 しかしこれは緊張を隠す微笑み、と思っていたが見事に的中。 ここからオケのメンバーの集中力が一段と増し、大団円のまま終楽章のクライマックスまで突き進んで行った。
ところで第4楽章では珍しくスコア通りに主題の繰り返しを行っていた。 通常は冗長とも感じるリピートなのだが、逆に緊張感を一層高めていたように思った。 この楽章、曽我さんはこれまでの踊るような指揮ではなく、終始徒手体操のように手を上へ横へと突き出していたのも印象的であった。 そしてこの楽章の終結部でも打楽器奏者4人の熱演があり、思わず客席から拍手が湧き起ってしまったが、これも頷けるものであった。
そして終楽章。 不気味な導入部、そしてバンダの鐘が不吉に響いてからオケがどんどんと開放されていくようだった。 強弱緩急自在、ノリにノリまくっていたようだ。 オケ全体が十二分に鳴り響いているのだが各パートが崩れない、すさまじいほどの集中力である。 もうここまできたらこちらも小さいことを考えながら聴くのはヤボというもの。 最後の一音まで一緒になって奏でられた音楽に身をまかせることにした。 そしてラストの一音が終わった直後のブラボーも見事にハマっていたように思う(静かに余韻を楽しみたい場合が多いのだが今回はそうではない)。 よかった。 感動した。
結果的にはいろいろなことをゴチャゴチャ言うよりも聴いて楽しければそれでいいじゃない、ということなのだが、確かにザワついた場面もあったけれど、こう書いてしまうと稚拙な演奏でも勢いで押し切ればいいじゃない、楽しければ... ということでは決してない。
大阪シンフォニカーの誰にもマネの出来ないここ一発の集中力・熱いハートが十二分に出し切られた大のつく熱演であった。

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