産経新聞記者 寺西肇さん

関西を拠点に活動するオーケストラ、大阪シンフォニカー交響楽団(敷島博子代表)が今月初旬、創設二十三年目にして、念願のヨーロッパでの公演を果たした。日本とルーマニアの国交百周年を記念し、音楽監督の曽我大介の指揮によって、ルーマニア国内で行われた三つのステージは、いずれも温かい拍手で迎えられた。

 大阪シンフォニカー響は一九八〇年に設立。国内のプロ楽団で唯一、ルーマニア人の楽団員を擁し、音楽監督を務める曽我大介がルーマニア国立音楽大学出身で、ルーマニア国立放送交響楽団の首席客演指揮者を務めている関係から、ルーマニアとの国交成立から百年にあたる今年、定期演奏会を開くなど関連のイベントにも参加してきた。
 一行の六十一人は十二月一日夜にルーマニア入り。四日間にわたる現地でのリハーサルを経て、六日にブカレスト、八日にトランシルバニアの古都ブラショフ、九日にブカレスト郊外の衛星都市プロイエシュテで公演。このうち、ブカレスト公演では、現地のルーマニア国立放送響と合同演奏も行った。
 前夜にイルミネーションの点灯も始まるなど、クリスマス・ムードあふれる中で行われたブカレスト公演。四日に行われた記者会見は現地の新聞各紙でも大きく取り上げられ、関心の高さをうかがわせた。当日は、会場のルーマニア国営放送局「ミハイル・ジョラ」大コンサートスタジオの千三百席は、開演前に約七割が埋まった。当初は出席予定だったイオン・イリエスク大統領は東欧会議のため欠席したが、「この演奏会を通じて、百年前に先祖が夢見た両国の友好を、未来へと紡いでゆけるのは、とても幸せなことです」とのメッセージを寄せた。
 ステージでは、まずシンフォニカー響単独でルーマニアの作曲家、シルベストリの「五つの民俗舞曲」、同響委嘱による間宮芳生の新作「オーケストラのための《地球のともだち》」、ソロ首席奏者の末原諭宜の独奏で尾高尚忠「フルート協奏曲」を演奏。さらに、ルーマニア国立放送響の約六十人が加わり、エネスコ「ルーマニア狂詩曲第一番」「同第二番」、圧倒的な迫力でのレスピーギ「ローマの松」を披露。聴衆はスタンディング・オベーションで応えた。
 共産主義政権下においては比較的ステータスの高かったルーマニアの演奏家だが、民主化後はそうでもなくなり、収入もダウン、今や技術レベルもヨーロッパ内では決して高いとは言い難い。ブカレスト公演で共演した国立放送響も、創立七十四年の同国屈指の名門楽団ながら決して例外ではないが、彼らの覇気あふれる演奏は、日本の楽員たちにも、大きな刺激を与えたようだ。
 大阪シンフォニカー響のコンサートマスター、森下幸路は「やはり『血』というものは、厳然とある気がします。そんなヨーロッパ人としてのアイデンティティを持つ彼らと、気持ちの上で音楽の『感じ方』が変わらなかったのが、うれしかった。僕たちがこれまでやってきたことは、間違ってなかった、と確信しましたね」と笑顔を見せた。
 一方で「日本人の奏者は、とにかく精密な演奏をすると聞いていたので、実は内心びくびくもしていた(笑)」と、国立放送響のコンサートマスター、ラウレチラ・グレゴリスクは明かす。「でも、実際にはハートの部分は同じだと分かった。学んだ点はたくさんある。今後の演奏にも大いに生かせると思う」とも語った。
 このコンサートを聴いたフランス在住の世界的劇作家でルーマニア国営放送の顧問も務めるアスタローシュ・ジョルジュ氏は「大変りっぱな演奏ですね。特に日本人作曲家の作品が、魅惑的に聞こえますね」と話していた。この日のコンサートは国営ラジオ放送を通じてルーマニア全土に生中継されたほか、テレビでも後日、放送された。
 十二月八日には、ルーマニア第二の都市・ブラショフへ。地元の楽団と合同演奏を行ったブカレスト公演とは違い、ここからはシンフォニカー響単独の公演となる。演奏曲は、ブカレスト公演でも演奏したシルベストリ、間宮、尾高に加え、ベートーヴェン「交響曲第七番」を準備。楽団員の間からは「これからが本当の勝負」との声も聞かれた。
 十四世紀にドイツからの入植者が建設したブラショフの街並みは、その美しさで知られる。ブカレストの無機質な建物群と、滞在中ずっと降り続いた雨で、少し沈みがちだった楽団員たちの心も、雪化粧した中世ドイツ風の落ち着いたたたずまいにすっかり癒された。演奏会が行われた軍人会館は、旧市街の東端に位置する約五百席の小ぶりなホール。大ホールでの演奏で緊張感のあったブカレスト公演とは一転、サロン風の会場で、リラックスした演奏を聴かせた。
 翌九日には、再びブカレスト近くへと戻り、衛星都市のプロイエシュティでの公演を行った。ここには、今年五十周年を迎えたプロ楽団、プロイエシュティ・フィルハーモニーがあり、毎週末に演奏会が開かれるなど、クラシック音楽への関心は高い。約六百席の中規模ホール「フィルハーモニカ《パウル・コンスタンティンスク》プロイエシュティ」は、珍しい日本のオーケストラの調べを聞こうという熱心な音楽ファンで埋まった。プログラムは前夜と同じながら、特にベートーベンで引き締まった音を聴かせた。
 音楽教師に引率され、最前列で耳を傾けていたプロイエシュティ市内にあるカラジアーレ高校一年の生徒たちは「とても明るい音が素敵」「アジアらしい響きの曲が面白かった」と口々に感想を語る。「個人だけでなく、オーケストラ全体として技術レベルが高いのが、何よりもすばらしい」とは、公演を聴いたプロイエシュティ・フィルのメンバーたち。「音楽性も技術レベルも高く、とてもすばらしい。一日じゅう聴いていても、飽きないだろうね」と、同フィルのビルジル・アノラケ前団長も賛辞を惜しまなかった。
 一行は十二月十一日、関西国際空港に帰着。 今回のツアーでは、何より「合同演奏が実現できたのが良かった」と楽団員たちは口を揃えた。ホルン首席の細田昌宏は「音楽は言葉を超える、と言うと月並みだが、実際に現地の団員とも音楽と楽器を介しているだけで、すぐに理解し合えるし、仲良くもなれる。そのことを再確認できただけでも、意味があった」と語る。また、副楽団長でトロンボーン首席の野口伸広のように、現地の奏者たちの手配で、大学図書館に眠る共産政権時代の楽譜を発掘し、楽器の調査も実施。「帰国したら、今度は日本から、向こうで手に入りにくい楽譜を送ってやりたい」と話すなど、奏者ならではの交流を楽しんでいた楽団員もいた。
 念願だった海外公演を無事に終え、音楽監督の曽我大介は「現地の耳の超えた聴衆を前に、楽団員たちはいい腕試しが出来たはず。今後の国内での演奏活動にも、これらの経験は役立つだろう」と話す。敷島博子・楽団代表は「ハードな日程でしたが、それでいっそう一丸となって演奏に取り組む姿勢ができたように思います。可能であれば、何度でも今回のような海外公演を実現できれば」と尽きせぬ夢を語った。(了)

◆神戸新聞記者藤本氏の随行記はこちら

RETURN公演批評TOPHOME