特別演奏会”メサイア”
日時:1999年12月10日・金 開演:18時30分
会場:いずみホール
出演:指揮/本名徹次
Sop/ 藤原啓子 Alto/片桐仁美 Ten/清水光彦  Bar/ 川下登
大阪シンフォニカー合唱団 (ノヴェロウ版)

コンサート批評
北夙川不可止(足立直哉さん)
千九百九十九年も残すところあとわずか、街にはクリスマスイルミネーション が輝き、世はミレニアムで沸き立つ十二月十日の夜、我等が大坂シンフォニカー の「メサイア」演奏会を聴きに行った。会場は大阪ビジネスパークのいずみホー ル。バブル期以降全国にパイプオルガン付きのコンサートホールが数多誕生した 中でも、最も美しく響きの良いホールの一つであろう。豪華さではザ・シンフォ ニーホールの上をゆくこのいずみホールで、歳末の「メサイア」に相応しい華や いだ雰囲気が開演前から高まっていた。ロビーに集う人たちにも、ドレスアップ した姿が目立つ。やはりクラシックのコンサートはこうでなければ。この、格調 高く美しい「ハレ」の空間こそが真骨頂である。かくいう小生も黒のインヴァネ スコートを羽織り、四つボタンのクラシックなスーツ、インナーの襟付きベスト には懐中時計の鎖を光らせるといういでたちであった。 以前から大阪シンフォニカーのホームページで、客席そしてステージのファッ ションについて、何度か意見を発表させて頂いたのだが、当夜の客席に関しては かなり気張ってお洒落をして来られた方が多く見受けられた点、大変嬉しかった 。ステージでもトランペットの臼田氏始めかなりファッションに気を配って下さ った方がいらっしゃったのだが、本名氏が白のカマーベストではなくタキシード 用の黒カマーバンドを巻いておられたのが、画竜点睛を欠きなんとも残念であっ た。ソロ・テナーの清水氏など前をボタンではなくスタッズ留める本格的なドレ スシャツを着ておられただけに、一番目立つ指揮者こそ最もちゃんとした着こな しをして頂かないと・・・・・・。

「メサイア」は通しで三時間近い大曲である。本日のプログラムは、第1部の 第十曲、十一曲、第2部の第三十四〜三十六曲、第3部の第四十九〜五十二曲を 省略しての演奏であったが、それでもそれでも二時間半を要した。 まず第一部、この大曲で最初からこんなに飛ばして大丈夫かを思うほど、冒頭 からの熱のこもった演奏にまず圧倒された。タクト無しで振る本名哲次氏の、時 折激しさも混じる優美な身のこなしに鋭敏に反応して、ヘンデルの華麗な世界が ほとばしり出る。第五曲のレチターチーヴォは力強く重厚、第七曲のコーラスは 早めのテンポも無理なくこなし、迫力があった。女性ソロ陣も技巧的にも十分で 、やや線の細いと思われる部分がなきにしもあらずではあったが、ホールの響き のよさを考えるとあれ以上無理に声を張り上げる必要もなかったのかもしれない 。 ただ、不思議だったのは最後の演出である。第二十曲、女性ソロ陣による静か な二重唱の最中に、コーラスが立ち上がったのだ。第2部の終曲である第二十一 曲に休まず突入するのであればともかく、第二十曲から第二十一曲の間にはワン クッション入るのであるから、その最中に立てばよかったのではなかろうか? 他の曲の継ぎ目ではそうしていたのだから、違和感の残る立ち方であった。 第1部の熱演の疲れが出たのか、第2部は冒頭からやや荒さが目立ち、特に弦 のアンサンブルに乱れが見られた。しかしそれも破綻を来たすほどではなく、曲 が進むにつれ調子を取り戻し、安心して聴き続けることが出来る程度のものであ った。第二十八曲など、男性から始まり女性へと受け継がれる難しいフーガ、バ ロックを専門としている合唱団でもないのに見事なバランスで聴いていて心地よ かった。小生も若干の合唱経験があるが、なかなか自分ではああは唄えないだろ うと思わされた。また第2部にはテノールのソロが多い。何やらちょっとイタリ アオペラを思わせる声質であったが、華やいだ歳末の「メサイア」であるからド イツ的な重厚さよりむしろ合っていたのかもしれない。第四十曲、バリトンのア リアがちょっと不明瞭だったのが惜しまれる。 第2部のラスト、第四十四曲は有名な「ハレルヤ」コーラスである。ヘンデル が初演した時、臨席していたジョージ王が感動のあまり立ち上がったとの逸話が 伝わり、今でもこの曲の時は立ち上がることが恒例になっているのだが、当夜は 立ち上がったのは小生を含め五人ほどであったのがやや寂しかった。このような 「決まりごと」を守ることも、クラシック音楽をライブで聴く場合のちょっとし た楽しみだと思うのだが。演奏の方は、ラストの「アーメン」とともにこの曲の ハイライトであるだけあって、圧巻の一言に尽きる。特にピッコロトランペット の華麗な響きは、我々聴衆をして陶酔の境地に至らしむるに十二分たるものであ った。オルガン、チェンバロ、コーラス、ソリスト、そしてオーケストラが渾然 一体となって醸し出す重厚にして華麗なる調べは、これぞオラトリオの醍醐味と いえるであろう。 「ハレルヤ」で最高に盛り上がったところで、いよいよ曲は終盤の第3部に入 る。ソプラノのアリアから始まり、一気にフィナーレへと突き進んでいく。主イ エス・キリストの復活、そして永遠の生命を称え喜ぶこの宗教曲の主題は、この 第3部に凝集されている。奇しくもいよいよ来年は西暦二千年。主イエスの生誕 二千年である。今この曲を演奏することの意義は、単なる年末の「風物詩」を超 えたところにあるといえよう。そして当夜の演奏も、この記念すべき年の演奏会 に相応しく、格調高く気品に満ちた演奏で終演に至った。終曲第五十三曲の「ア ーメン」コーラスではさまざまな思いが過ぎり、そして今健康に、そして満ち足 りて新たな年を迎えんとしていることを喜び、思わず涙が出そうになったほどで ある。 個人的に、この六年ほどはかなりの波瀾万丈な日々であった。ようやくに落ち 着きを取り戻し、やっと半年余が過ぎたところである。しみじみと、喜びに満ち た気分でホールを後にすることが出来たことを、心より感謝したい。今年も今月 は、全国各地で様々な団体によりさまざまな「メサイア」が演奏されることであ ろうが、当夜の大阪シンフォニカーの演奏は、中でも飛び切りの名演の一つであ ったと確信している。 ハレルヤに立ちしは五人のみなれどオルガンの音高く響けり
本名徹次 Sop/藤原啓子
Mezzo/片桐仁美 Ten/清水光彦 Bar/川下登

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