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◆大山平一郎の指揮によるベートーヴェン・プログラムで、ヴァイオリン協奏曲と交響曲第3番「英雄」が演奏された。
冒頭のヴァイオリン協奏曲では、台湾出身で国際的に活動しているチョーリャン・リンが独奏者に迎えられていた。瑞々しい青年として華々しく活躍していたリンも、しばらく接する機会がない間に、すでに40代後半という年齢になっており、外見は確かに中年の世代という印象を受けるが、彼のヴァイオリンの音は以前と大きくは変わっておらず、相変わらずの瑞々しさである。もともと豪快に楽器を鳴らすというより、やや線の細い音で繊細に演奏するタイプだったが、今回もそれは同じだった。技術的な安定度は高く、カデンツァを含めて見事なまでにカッチリと弾き上げているが、表現としては端正にすっきりとまとめたという感じで、きわめて美しくスマートである。しかし、あまりにあっさりとした表情でサラサラと弾き進められるために、心地よく流れるだけの音楽になってしまった。何かもう少し強いものとか、粘りのある表情も欲しかったというのが実感。大山も、そうしたリンの独奏に合わせてだろう、オーケストラを少しも煽り立てることなく、実に穏やかな音と表情でまとめていた。総じて、清潔感のあるベートーヴェンだったと言える。
協奏曲で、半ば自分を殺して演奏していたと思われる大山だが、後半の「英雄」では、まさしくベートーヴェンを得意とする指揮者らしい充実した演奏を展開した。協奏曲より、はるかに身振りの大きい表現になり、スケールの大きさを感じさせるが、そこには少しも無理がなく、柔軟さとふくよかさを伴って、実に魅力的な表現を聴かせた。オーケストラのまとまりも良く、管弦の各パートのバランスも整い、そこから透明感に溢れた音が紡ぎ出されてゆく。とかく勢いづいて騒々しいとか粗々しいといったことになりがちな曲だが、今回は力任せのストレートな強音もなく、常に含みがあるとでも言えるような音で表現されていた。それに加えて、急速楽章でのよく弾むリズムや推進力に富んだ音楽の運び、緩徐楽章でのニュアンスの豊かさなどがあって、どこを取っても音楽的な表情を失うことがなかった。ポピュラー名曲に入れられるほどの有名曲ながら、どちらかと言えば元気一杯だけが取り柄のような演奏を聴かされることが多い「英雄」だが、今回の演奏はベートーヴェンを得意とする大山のものとしても出色の出来だったと言える。実際のところ、その充実した演奏に聴き入っていて、かなり長い曲がアッという間に終わったという印象であった。(3月16日、ザ・シンフォニーホール)(C)福 本 健