2005年12月21日 感動の第九曲目解説
◆ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791):ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調 K.216
この協奏曲が作曲された1775年、モーツァルトは19歳を迎えた。「天才も二十歳過ぎればただの人」とはよく言うが、モーツァルトにとっての不幸は、彼自身が真の天才だと強く意識していたことであり、更なる不幸は、ヨーロッパ中の先進的な大都市を巡り帰郷したザルツブルクが、あまりにも彼の才能に無理解であったことだ。モーツァルトはこの年、わずか10ヶ月の間に立て続けに5曲のヴァイオリン協奏曲を作曲した。それは彼自身の独白である。「どうか私の協奏曲を聞いてください。私はこんなにも多様な曲を作曲できます。これまでの協奏曲とは明らかに違う次元の作品だということがわかってもらえますか? 私の心はこんなにも純粋で孤独なのです・・・お願いです、私の才能を認めてください。そして相応しい仕事を下さい。」しかしモーツァルトの願いは叶えられず、2年後には母のアンナ・マリーアと共にパリへ就職旅行に出かけ、その地で母を失う。就職もままならず失意の中帰郷したモーツァルトは、ザルツブルク大司教と大喧嘩の末ウィーンに飛び出し、自由音楽家として最後の10年を過ごす。第1楽章 アレグロ ト長調 協奏風ソナタ形式。冒頭主題は同年に初演された音楽劇「牧人の王」K.208にも見られる。
第2楽章 アダージョ ニ長調 この楽章では、オーボエの代りにフルートが用いられている。
第3楽章 ロンドー アレグロ ト長調。「ロンドー rondeau」とフランス風に記されていることからもわかるように、この協奏曲全体は当時流行だったフランス・ヴァイオリン音楽の色彩がつよく見られる。◆ ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827):交響曲 第9番 ニ短調 op.125「合唱」
「我が子を天才にしたい!」これは古今東西変わらぬ世の親の願いである。そして親がすべきことはスパルタ教育、つまり「巨人の星」の星一徹であり、ベートーヴェンの父親であった。そしてこの厳しい教育により、ドイツ・ボン生まれのベートーヴェン少年もまた天才候補としての資格を得る。
ベートーヴェンの父親は「我が子を第2のモーツァルトに!」と願い、ウィーンにまで出かけ、そのモーツァルトに面会するなど八方手を尽くすが、思うような成果は得られなかった。その後5年間、ベートーヴェンは故郷で青春時代を過ごす。
奇しくも前述のモーツァルトと同じ19歳になった1789年、隣国でフランス革命が起こる。貴族や教会が支配者であった封建社会から、市民が自由を得た歴史的ニュースを聞いたベートーヴェン青年は、体中に熱いものが流れるのをはっきりと意識した。「私は全人類と全宇宙の平和のために作曲をする!」シラーの詩『歓喜に寄す』を手に、ベートーヴェンは固く誓った。
時は過ぎ1824年、54歳のベートーヴェンはヨーロッパ楽壇に君臨する大作曲家であった。しかし肉体的には既に耳は全く聞こえず、家族を持たない、家族を持てないベートーヴェンは、精神的にも疲労困憊していた。
このような状況で、最後の力を振り絞り完成させたのがこの第九交響曲である。ベートーヴェンの天才の本質はメロディー作曲家としてではなく、音というレンガを探しに探して、ついにこれぞという一つを見つけ出し積み上げ、巨大な構造物を作り上げる構成力と精神力である。
人類が手にした最高の創造物の一つである第九交響曲は、歴史的には古典派からロマン派という大きな扉を押し開く。また「歓喜の歌」は時代と民族を越え、ある時はベルリンの壁開放の賛歌として、また現在は欧州連合の歌として永遠の輝きを放ち続ける。
楽曲的にまず注目すべき点は調性である。第1楽章はニ短調で支配されるが、この調性は、他でもないモーツァルトのレクイエム、ドン・ジョバンニ、ピアノ協奏曲第20番K.466の調性である。才能のある作曲家ほど、調性に対するインスピレーションは鋭い。ましてやモーツァルトを心から尊敬していたベートーヴェンが、自分のライフワークである第九交響曲に、モーツァルトの特別な調性であるニ短調を選択したことは重要な意味がある。第4楽章でニ長調の「歓喜」をもたらすためには、その対局であるニ短調の「苦悩」が必要であった。第1楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ・エ・ウン・ポーコ・マエストーソ。長大なソナタ形式。
第2楽章 モルト・ヴィヴァーチェ。ティンパニが活躍する急速なスケルツォ楽章。
第3楽章 アダージョ・モルト・エ・カンタービレ。美しい転調をともなったロマンティックなメロディーが天国へといざなう。
第4楽章 プレスト−アレグロ・アッサイ。声楽ソリスト、合唱が加わっての「歓喜の歌」。混迷の続くイラク情勢。出口の見えない北朝鮮問題。M&Aに揺れた経済界。小泉台風が吹き荒れた政界。地震に揺れた日本列島・・・第九交響曲は今年起こった全ての出来事と煩悩を昇華して2006年への扉を開く。
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