2006年12月26日 特別演奏会「感動の第九」曲目解説

◆エドヴァルド・グリーグ(1843〜1907):ピアノ協奏曲 イ短調 Op.16
 ノルウェーのクラシック音楽界は、来年没後100年を迎える作曲家エドヴァルド・グリーグなしには語れません。ノルウェーがスウェーデンから独立を達成したのは、彼の死のわずか2年前ですが、グリーグの作品はすでに世界中で演奏されていました。
 グリーグの作品中最も頻繁に演奏されるのが、彼の唯一の協奏曲である「ピアノ協奏曲イ短調作品16」です。グリーグは15歳からの3年半、ライプツィヒ音楽院で作曲とピアノを学びます。そして当地でクララ・シューマンの演奏するシューマンの「ピアノ協奏曲イ短調」を聴き、大変感激します。これはグリーグのピアノ協奏曲成立の大きなヒントとなり、実際にイ短調という調性のみならず、開始の部分や全体のイメージまで共通点が指摘されます。いみじくもこの二つのピアノ協奏曲は、今日最良のカップリングとして一枚のCDに収まりショップに並んでいます。

第1楽章 アレグロ モルト モデラート。ソナタ形式
冒頭のピアノのフレーズは、フィヨルドに注ぐ滝の流れを連想させる。短調と長調が織りなす第一主題は、あたかも北欧の自然の息吹のような感情を表出している。ピュー・レントと指示されている第二主題は、静かに包容力をもって歌われる。

第2楽章 アダージョ。複合三部形式
弱音器をつけた弦楽器が、変ニ長調の温もりある旋律を奏でる。第二部では「北欧のショパン」と呼ばれるに相応しい、詩的なピアノが加わる。第三部では充実した管弦楽に支えられ、主題が堂々と奏され、次第に静かに消えていく。

第3楽章 アレグロ モデラート モルト エ マルカート。ロンドソナタ形式
第一主題は短調であるが、行進曲風の軽快なリズムと相まって悲壮感はない。中間部では水面を滑空する水鳥のごときフルートのソロが印象的。終結部は、この第二主題を管弦楽とピアノが強奏し、壮大なフィナーレとなる。

◆ ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827):交響曲 第9番 ニ短調 op.125「合唱」
 ベートーヴェンの交響曲第9番は、そのタイトル「合唱」が示すように、最終楽章に声楽ソリストと合唱が入り、ドイツ語で歌われることは小学生でも知っています。ではドイツの小学生が、この「第九」を聞いて、歌詞のドイツ語が理解できるかというと、実は一部を除いて不可能なのです。ちょうど我々が「君が代」を聞いても、すぐには理解できないことと似ています。
 「第九」の歌詞はフリードリヒ・フォン・シラー(1759〜1805)の詩「歓喜に寄せて」から3分の1程度が抜粋され、一部をベートーヴェン自身が編集して使われています。そして、はじめて「第九」を耳にした現代のドイツ人が、すぐに理解できる二カ所こそ、ベートーヴェンが編集した部分なのです。一カ所目はバリトンの歌い出しのレチタティーヴォ、「おお友よ、このような音ではない! 我々はもっと心地よい、もっと歓喜に満ち溢れる歌を歌おうではないか。」という部分、そしてもう一カ所が、ベートーヴェンが世界の人々に永遠に訴えたかった部分なのです。それは、「Alle Menschen werden Brüder」つまり「すべての人々は兄弟となる」という部分です。シラーの原詩では、「Bettler werden Fürstenbrüder」「貧しき者らは王侯の兄弟となる」です。シラーは当時すでにゲーテと並ぶ偉大な詩人・思想家であり、彼の「自由」の思想は、ドイツ国民の精神生活に大きな影響を与えました。その偉大な詩人の作品に手を入れるということは、かのベートーヴェンでさえ大きな苦悩の末の決断であったに違いありません。現代ならば著作権侵害で非難を浴び、損害賠償を請求され、自らの芸術家生命を奪いかねない決断です。しかしこの決断により、「第九」は時空を超えた人類の讃歌としての輝きを手に入れました。「第九」は平和で自由な世界の象徴であり、同時に私たち一人一人がこれを守らねばならないという、「楽聖ベートーヴェン」からのメッセージなのです。

第1楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ・エ・ウン・ポーコ・マエストーソ
冒頭、ホルンと弦楽器のトレモロにより奏されるニ音とイ音による完全五度は、宇宙空間を想像させる。次第に輪郭が見え出現した巨大な第一主題は、ベートーヴェンの権化であろうか。旋律的な第二主題は、第4楽章の「歓喜」の主題を暗示させる。

第2楽章 モルト・ヴィヴァーチェ
複合三部形式をとるスケルツォ楽章で「ティンパニ協奏曲」とも呼ばれる。宇宙空間にばらまかれた原子が運動をはじめ、ぶつかり合い、天神祭の「ギャル神輿」のごとく熱を帯びる。中間部はニ長調で推移し、第4楽章の「歓喜」の時がさらに迫っていることを知らされる。

第3楽章 アダージョ・モルト・エ・カンタービレ
ベートーヴェンは二流のメロディー作曲家である。神の啓示のごとくメロディーを生んだモーツァルトとは比較にならない。しかし、ベートーヴェンが誰よりも努力して、選びに選び抜いた音霊は、比類のないカンタービレとして結実し、聴衆を夢の世界へと誘う。

第4楽章 プレスト−アレグロ・アッサイ
前の3つの楽章の断片が短く回想され、オーケストラはこれをレチタティーヴォ風に、ことごとく否定する。歓喜の歌が提示され、ついに待ち望んでいた時がやってきた。

(c)大阪シンフォニカー交響楽団ITプランナー 佐々木 修


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