2011年03月19日第14回東京公演〜曲目解説

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756〜91)
 交響曲 第35番 ニ長調「ハフナー」K.385

 《ハフナー》交響曲と《ハフナー》セレナードは、共に、ザルツブルクの豪商ハフナー家のために作曲されている。K.250(K.248b)のセレナードは、1776年にハフナー家の令嬢の婚礼祝いのために作曲されているが、このK.385は、1782年にジキスムント・ハフナーがザルツブルクの貴族に列された祝典のために作曲された2曲目のセレナードが原曲となっている。父レオポルトの仲介で、ウィーンにいたモーツァルトは、このセレナードを作曲したが、その後に父親に手紙を出し、その手稿を取り戻して、大急ぎで4楽章の交響曲に改編したのである。原曲は、1782年7月から8月初旬にウィーンで作曲されたが、ザルツブルクでの初演記録は不詳である。交響曲としての初演は、1783年3月22日、ウィーンにおけるモーツァルト自身の演奏会で行われた。原曲のセレナード冒頭にあった行進曲楽章は、K.249として現存しているが、交響曲改変時に省かれた残りの2曲のメヌエットは紛失したままである。
 この交響曲への改変に、モーツァルトは絶大な自信を持っていた。1783年2月15日の父レオポルトに宛てた手紙にも、その旨が書かれている。
 モーツァルトのウィーン時代の最初の交響曲である。

 第1楽章 アレグロ・コン・スピリト
 第2楽章 アンダンテ
 第3楽章 メヌエット
 第4楽章 フィナーレ:プレスト

 オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペット、ティンパニ、 ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス

(C) 國土 潤一(評論家)(無断転載を禁ずる)

 糀場富美子
 大阪交響楽団創立30周年記念 堺をテーマとした委嘱作品 「─古えの堺へ─百舌鳥耳原に寄せる3つの墓碑銘」

 大阪交響楽団より堺をテーマにした曲をとの委嘱を受けたのは、拙作「The Transmigration of the Soul」を演奏していただいた数年前のことになります。商業の町として発展した堺、与謝野晶子、千利休を育んだ堺。いろいろな顔を持つ堺ですが、古の堺へ誘ってくれる古墳群は存在そのものが圧倒的であり、想像をかき立てられます。
 昨年秋に堺市を訪問し、仁徳天皇陵、そして息子である履中、反正の両天皇陵を訪れました。仁徳天皇までは兄弟で天皇を継ぐことはなかったようですが、仁徳天皇の第一子である履中天皇は、皇位を奪おうとした住吉仲皇子(反正天皇の同母兄)を、自分の異母弟である後の反正天皇に命じて誅殺させます。その権力争いの凄まじさに人類不変の業を感じずにはいられません。
 この曲は続けて演奏される5つの章で構成されていますが、私の思う三人の天皇の特徴的なイメージを中心に据えて表現しています。
 第1章プロローグは、古の堺に誘う情景描写です。鳥の羽ばたきを木管楽器のキークリックで、鹿の鳴き声を弦楽器の特殊奏法で、また古代に誘う風を金管楽器のブレストーンで表現しています。
 ここは古の堺。百舌鳥の鳴き声に導かれて、戦の始まりを表現した弓を打ち鳴らす音、そして大太鼓と巫女の鈴。第2章では、堂々としながらも優しさのある仁徳天皇を、チェロと金管群で表現しています。
 続くアレグロの第3章では、木鉦を中心とした16分音符の持続の中で、非情でアクティブな履中天皇を力強く奏するトロンボーンで表現しています。
 実の兄を殺さなければならなかった反正天皇の悲しみを表現したコールアングレの旋律を冒頭においた第4章では、反正天皇の苦悩と祈りを表現しようと思いました。曲は、時代を越えて存在する百舌鳥耳原の古墳群をイメージした第5章エピローグで締めくくられています。
 この曲を聞いて下さる皆さんが、百舌鳥耳原に思いを馳せて下されば幸いです。

 初演をして下さる指揮の児玉宏氏、大阪交響楽団の皆さん、そして楽団長の敷島鐵雄氏をはじめ事務局の方々に心からお礼申し上げます。


(C) 糀場富美子(作曲家)(無断転載を禁ずる)

 ニノ・ロータ(1911〜1979)
 交響曲第4番「愛のカンツォーネ」に由来する交響曲

 映画ファンにとっては、ニノ・ロータの名前は、忘れ難いものだろう。その映画との関係は、既にルイジ・ザンパの『平和に生きる』(1947年)に始まっているが、その名を決定づけたのは、1954年のフェデリコ・フェリーニ監督の『道』の音楽であろう。
 これ以降のロータの映画音楽の代表的なものを列挙してみよう。
 キング・ヴィダー『戦争と平和』(55年)
 F.フェリーニ『カビリアの夜』(56年)
 ルキノ・ヴィスコンティ『白夜』(57年)
 F.フェリーニ『甘い生活』(59年)
 ルネ・クレマン『太陽がいっぱい』(60年)
 L.ヴィスコンティ『若者のすべて』(60年)
 ヴィットリオ・デ・シーカ&L.ヴィスコンティ『ボッカチオ’70』(62年)
 F.フェリーニ『8 1/2』(63年)
 L.ヴィスコンティ『山猫』(63年)
 F.フェリーニ『魂のジュリエッタ』(65年)
 フランコ・ゼッフィレッリ『じゃじゃ馬ならし』(66年)
 ルイ・マル&ロジェ・バディム『世にも怪奇な物語』(67年)
 F.ゼッフィレッリ『ロメオとジュリエット』(68年)
 F.フェリーニ『サテリコン』(69年)
 セルゲイ・ボンダルチュク『ワーテルロー』(70年)
 フランシス・コッポラ『ゴッド・ファーザー』(72年)
 F.フェリーニ『フェリーニのローマ』(72年)
 F.フェリーニ『アマルコルド』(73年)
 F.コッポラ『ゴッド・ファーザーPartU』(74年)
 F.フェリーニ『カサノヴァ』(76年)
 F.フェリーニ『オーケストラ・リハーサル』(78年)
 マルチェロ・マストロヤンニが、ソフィア・ローレンが、アラン・ドロンが、オリヴィア・ハッセーがマーロン・ブランドが、ロータの音楽と共に、我々の記憶の中に生きている。傑作映画は、勿論、映画監督と名優によって作られるが、その名画の中でのロータの音楽は、忘れ難い美しさと感動を観客に与えてくれた。ロータがこれらの名画のために作曲した音楽は、名画と共に、強く深く観客の心の中に生き続けている。その美しく印象的な旋律と豊かなハーモニー、当意即妙な音楽は、凡百の映画のための音楽とは次元を異にしている。
 しかし、それが、その一方で作曲家ニノ・ロータの姿を見誤る一因ともなってはいないだろうか?
 1911年12月3日、ミラノに生まれたロータは、祖父にピアニストで作曲家のジョヴァンニ・リナルディ(1840〜95)を持ち、8歳から母にピアノを、ペルラスコにソルフェージュを学び始め、その年には最初の作曲を行っている(このオラトリオは、1923年にミラノとリールで初演された)。1923年にミラノ音楽院入学、更には25年にはピッツェッティの個人指導も受け、その後はローマに移り、カゼッラに師事、30年に聖チェチーリア音楽院を卒業する。その後には、アメリカに渡りフィラデルフィアのカーティス音楽院で、スカレーロに作曲を、そして名匠フリッツ・ライナーに指揮も学んでいる。イタリアに戻ったロータは、39年にバーリ音楽院の和声の教師となり、50年には同音楽院の院長に就任した。
 青年時代にはストラヴィンスキーと親交を結んだロータは、当時の最先端の音楽を理解吸収すると共に、より平易で美しい音楽作りを目指した。旋律の優位性は、或る意味、時代と逆行するものでもあったが、そこに平明にして美しい和声と調性、そして洗練されたリズムを伴うロータの音楽の美しさは、卓越していた。「時代おくれ」と揶揄できない確かな技法と美への揺るぎない見識が、ロータの音楽に気品を与えていたのだ。
 1946年に作られたオペラ《フィレンツェの麦わら帽子》は、20世紀中葉の最も魅力的なオペラのひとつであるし、1964年から65年にかけて作曲された《弦楽のためのコンチェルト》は、ロータが新しいものと伝統的なものとを如何に共存させていたかを良く理解させてくれる傑作であり、近年は演奏される機会も少なくない。
 交響曲第4番《愛のカンツォーネに由来する交響曲》の作曲は、1947年に始められている。先述した映画音楽の世界にも足を踏み入れる一方で、純音楽の世界でも、《フィレンツェの麦わら帽子》や多くの室内楽曲の創作活動に多忙を極めていた時代であった。しかし、この曲の初演までには、まだ多くの時間を必要とした。
 第1楽章アレグロは、1943年のカステラーニ監督の映画『山の女』から引用されているが、他の楽章は、1963年のヴィスコンティ監督の映画『山猫』と密接な関係を持っているのだ。『山猫』の音楽作曲契約をしたロータは、ヴィスコンティのたっての希望で、映画の劇伴音楽ではなく、映画の主要テーマが盛り込まれたオリジナルの交響曲的作品を生み出さねばならなくなる。ヴィスコンティとロータが、そのアイディアを打ち合わせる中で、グノーやマスネ、ワーグナーの断片などと共に、1947年に作曲したロータの旧作をピアノで彼が弾くと、ヴィスコンティは喜び、それが第3楽章アンダンテへとつながって行った。第4楽章アレグロ・インペトゥオーソも、ヴィスコンティは、映画の旅の長いシーンにふさわしいと判断したと伝えられている。
 映画音楽と純音楽の「2足の草鞋」を履いた作曲家であったニノ・ロータにとって、この交響曲第4番は、その2つの世界をつなぐ架け橋とも言える作品と言えるのではないだろうか。

第1楽章 アレグロ
第2楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
第3楽章 アンダンテ・ソステヌート
第4楽章 アレグロ・インペトゥオーソ(性急な、激しい)

フルート、ピッコロ、オーボエ、イングリッシュ・ホルン、クラリネット、バス・クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、バス・テューバ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ティンパニ、打楽器。

(C) 國土 潤一(評論家)(無断転載を禁ずる)


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