大阪シンフォニカー交響楽団
淡路定期 2002年9月8日
曲 目 解 説
モーツァルト(1756-91)は天才でした。作曲だけでなく、演奏の才にも恵まれ、ピアノ協奏曲などは弾き振りのかっこよさでした。残念ながら録音などはない時代でしたので、再現して聴くことはできませんが、ピアノを弾く姿は絵にも描かれて、わたしたちの想像力を刺激します。しかも、人の才能を尊重する気持ちがあったことは、特定の演奏家を想定して書かれた作品があることでもよくわかります。現在なら委嘱作ということになりますが、注文もたくさんあって、けっこう売れっ子のエンターテイナーでした。しかし、パトロンの嗜好に迎合するだけでは、アーティストのプライドが許さないのも事実でしょう。誰にでもわかりやすいスタイルで、音楽の可能性を開くところがモーツァルトの魅力ですが、今回のプログラムはモーツァルトの作風を代表する傑作が選ばれています。
セレナード 第6番 ニ長調 K.239 「セレナータ・ノットゥルナ」
セレナードは貴族の冠婚葬祭など、特別の機会に演奏される音楽です。同じ趣向のディヴェルティメントが室内楽的なら、セレナードは屋外向きの音楽ということになりましょうか。恋人の窓辺でというイメージに結びつくわけですが、セレナータ・ノットゥルナというのは複数のオーケストラ編成で、第1グループにソリスト級の奏者が並んで、独奏と合奏が掛合うバロック時代のコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)のような仕立てになっています。優雅な「ギャラント」スタイルの社交用音楽で1776年1月の作曲ですが、どんな機会のためだったのかは不明です。
第1楽章(マエストーソ、ニ長調 4/4拍子)行進曲で始まるところが、いかにも野外音楽的ですが、二つの主題が提示、展開、再現するソナタ形式です。
第2楽章(メヌエット、ニ長調 3/4拍子)メヌエットは宮廷の舞踊音楽で、主題が対照的なトリオと呼ばれるパッセージを中において何度も繰返されます。
第3楽章(ロンドー―アレグレット、ニ長調 2/4拍子)古風なロンド(輪舞)で、主題と副主題が対照的な中間部を挟んで鏡状に転回します。
ピアノ協奏曲 第9番 変ホ長調 K.271「ジュノーム」
モーツァルトが弾いていたピアノはハンマーフリューゲルといって、チェンバロに替わる新しい鍵盤楽器で、クラヴィーアと総称されます。弦を爪で掻くチェンバロから、弦をハンマーで叩く機構に変って、フォルテとピアノがダイナミックに弾き分けられるようになりました。今日の演奏で使用されるフォルテ・ピアノは昔のオリジナル楽器を復元したもので、スタインウエイなどの現代ピアノとは音色も音量もかなり違います。
「セレナータ・ノットゥルナ」から1年後のことです。フランスのクラヴィーアの名手マドモワゼル・ジュノームがザルツブルクを訪れることになり、モーツァルトは彼女に献呈する新曲を書きました。「ジュノーム」という名称のいわれです。1777年1月の作で、若いモーツァルトの高揚した気持ちが気品のあるスタイルと成熟した内容に読みとれますが、画期的な新鮮さと完成度を持った作品になりました。
第1楽章(アレグロ、変ホ長調 4/4拍子)第1主題がオーケストラとピアノの対話で現れ、第2主題がピアノの雄弁な歌になります。ソナタ形式です。
第2楽章(アンダンティーノ、ハ短調 3/4拍子)緩やかなテンポの叙情的な歌とトリルが聴きどころのソナタ形式です。
第3楽章(ロンドー−プレスト、変ホ長調 2/2拍子)二つの主題がABAと転回し、対照的な中間部C(メヌエット)を軸にして、もう一度ABAと転回します。繰返しの変奏が印象的なロンド形式です。
交響曲 第41番 ハ長調 K.551 「ジュピター」
モーツァルト最後の交響曲です。ハ長調という単純な調性で明快な曲想を自由に飛翔させて「ジュピター」と愛称されています。
自筆目録には1788年8月10日と記されていますが、第39番からの3曲は傑作中の傑作で、6週間の間に作曲されています。しかし、いつ、どこで、誰のために作曲したのか不明です。すでに「フィガロの結婚」(1786)や「ドン・ジョバンニ」(1787)を書いて名声は充分でしたが、経済的には必ずしも恵まれていませんでしたので、新しいパトロンを求めて書きためたのでしょうか。それともフリーランスの生きがいは芸術のために書くことだったのでしょうか。なぞはなぞを呼びます。
第1楽章(アレグロ・ヴィヴァーチェ、ハ長調 4/4拍子)勇壮なオーケストラの合奏と静かな弦の音形を組合わせた第1主題で始まり、転調して対旋律が現れて第2主題になります。さらにオペラ・ブッファのために書いたアリア(K.541)の引用が第3主題となって展開します。ソナタ形式ですが、オペラと交響曲の血縁が読み取れる面白い楽章です。
第2楽章(アンダンテ・カンタービレ、へ長調 3/4拍子)弦に弱音器が付きます。イタリア風のメロディーたっぷりの2つの主題が展開するソナタ形式です。
第3楽章(メヌエット―アレグレット、ハ長調 3/4拍子)古典的なメヌエットで、木管の使い方などはハイドンそっくりですが、トリオが終止形で始まって逆行するよう
な印象を与えるのはモーツァルト一流の真面目な冗談でしょうか。
第4楽章(モルト・アレグロ、ハ長調 2/2拍子)モーツァルト好みの第1主題と対照的に下降する第2主題のソナタ形式です。長いコーダが付いて、あふれる楽想をポリフォニックに歌わせたり、カノンふうに進行させたり、対位法の妙技も楽しいフィナーレです。
音楽評論家 鴫 原 眞 一
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