淡路定期 2003年9月28日
曲 目 解 説:メンデルスゾーン(1809〜1847)
■序曲 「フィンガルの洞窟」 Op.26
古典派の最も重要な分野のひとつである交響曲は、ベートーヴェン以降、次第にかつての栄光と重要性を失っていった が、オーケストラの多彩な響きに霊感を得ていたロマン派の作曲家たちは、交響曲以外の分野で大きな成果を上げており、 そのひとつが演奏会用序曲である。メンデルスゾーンはこの分野で際立った活躍をしており、生涯に少なくとも9曲の序 曲を残している。しかしそのほぼ半数は今日ではほとんど知られていない。最も広く知られているのが「フィンガルの洞 窟」と「真夏の夜の夢」だろうが、後者は後述するように、本来単独で生み出されながら後に作曲された付随音楽と共に ひとつの舞台作品のための序曲となっている。一方「フィンガルの洞窟」は、音楽独自で存在するもので、純粋に演奏会 用序曲である。
フィンガルの洞窟というのは、スコットランド北西部、ヘブリディース諸島の中のスタッファ島にある巨大な岩窟で、 その地方の伝説の人物フィンガルの名をとって“フィンガルの洞窟”と呼ばれている。1829年、メンデルスゾーンは初め てロンドンに演奏旅行を行い、スコットランドにも旅してこの洞窟を見物し、その印象を翌年のイタリア旅行中のローマ で書き上げた。そしてさらに改訂を加えて、2回目にロンドンを訪問した1832年に作曲者自身の指揮で初演し、絶賛を博 した。曲は形式的には古典的なソナタ形式をとるが、内容的には情景を描写した標題音楽で、その色彩的な絵画性はロマ ン主義の根本的特徴を示すものである。
■ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64
メンデルスゾーンは生涯に2曲のヴァイオリン協奏曲を残したが、13歳の時のニ短調作品はあまり演奏される機会がな く、彼のヴァイオリン協奏曲と言えば一般にこのホ短調作品を指す。この曲は1838年に着手されたが、作曲は思うように 進まず、その結果、当時彼が常任指揮者を務めていたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターで親 しい友人でもあったフェルディナンド・ダヴィッドに助言を求め、その協力によって着手から6年後の1844年に完成した。 メンデルスゾーンの全作品の中で最も優れ、また最もポピュラーな作品のひとつであるこの協奏曲は、同時にドイツ・ロマ ン派の最も実り多き協奏曲のひとつでもある。彼の作品に共通する特徴と言えるロマン的な情緒と均整のとれた形式美が、 これほど見事にしっくりと調和した作品は他には見られないだろう。しかもダヴィッドの助言が生きて、ヴァイオリンの 扱いもきわめて魅力的なものとなっている。曲はアレグロ・モルト・アパッショナートでソナタ形式の第1楽章、アンダン テで3部形式の第2楽章、アレグレット・ノン・トロッポの序奏にアレグロ・モルト・ヴィヴァーチェでソナタ形式の主部が 続く第3楽章からなるが、全曲は切れ目なく演奏されるように作られている。しかし各楽章がひとつの素材で有機的に結 びつけられているわけではなく、それぞれに独立したまとまりを持つ。
■ 弦楽のための交響曲 第10番 ロ短調
ロマン派の時代には交響曲という分野が衰退していったと述べたが、それでもやはり作曲家にとって交響曲は重要なジャ ンルのひとつであったわけで、メンデルスゾーンも一般的な2管編成のオーケストラのために5曲の交響曲を作曲した。 それら本格的な交響曲の前段階として、彼は弦楽オーケストラ用の交響曲を1821年に6曲まとめて作曲し、さらに1822年 に2曲、1823年に4曲を書き上げた。これらはモーツァルトの様式を下敷きにしながら、溢れ出る楽想を盛り込んだ作品 で、12歳から14歳にかけてという若いメンデルスゾーンによるものながら、すでにこの作曲家ならではの魅力が認められ る。そのうち第10番は1823年の作で、この年に作曲された他の3曲と同様に、それ以前の作品より一段と充実したものに なっている。全12曲のほとんどは3〜4楽章構成だが、この第10番だけはアダージョとアレグロの2楽章制となっている。
■劇音楽 「真夏の夜の夢」 より抜粋
メンデルスゾーンが作曲した「真夏の夜の夢」は、シェイクスピアの戯曲のための劇音楽である。彼がその劇音楽を作 曲したのは1843年だが、序曲だけはもっと早い時期に作られていた。メンデルスゾーンがシェイクスピアの戯曲「真夏の 夜の夢」を読んだのは17歳の時で、その戯曲の夢幻的な内容に霊感を受けて直後に序曲を作曲した。つまりその時点では、 序曲「真夏の夜の夢」は前述のように「フィンガルの洞窟」や「静かな海と楽しい航海」などの演奏会用序曲と同じ独立 した管弦楽曲だったわけである。それから17年後に、同じ戯曲のための付随音楽を作曲することになったメンデルスゾー ンは、かつての序曲をそのまま転用し、劇中音楽として新たに12曲を作曲した。この序曲と劇中音楽の間には、時期的に それだけの長い隔たりがあるが、メンデルスゾーンは序曲に使ったモティーフを劇中音楽に巧みに織り込んだため、両者 の間にはまったく違和感がなく、彼の美しい管弦楽曲の代表的な作品となっている。今回は、その序曲と劇中の音楽4曲 が演奏される。
「序曲」は、まさに音画とも言える幻想的で妖精的な雰囲気が見事に表出された傑作。
「スケルツォ」は第2幕第1場、アンゼスの森の中の場を開始する幻想的な音楽で、妖精たちの戯れを想わせる。
「間奏曲」は第2幕と第3幕の間で演奏される音楽。前半は第2幕の物語を受けて森の中をバラバラにさまよう男女4人 の不安げな気持ちを表すような曲で、後半は第3幕を予告するように村人たちの登場をコミカルに表現している。
「夜想曲」は第3幕と第4幕の間の間奏曲で、妖精の魔法によって2組の恋人が森の中で眠りにつく様子が描かれている。
「結婚行進曲」は第5幕、シーシウス公の館で執り行われる2組の恋人たちの結婚式に先立って演奏される曲。今日でも 結婚式で演奏されることが多い、あまりにも有名な曲である。