特別演奏会“春”/大阪シンフォニカー合唱団 第3回定期演奏会 2004年4月25日(日)
■夜想曲(ノットゥルノ) ロ長調 作品40
この曲は実はオリジナル作品ではなく、1870年に作曲された単一楽章の弦楽四重奏曲 第4番のアダージョ・レリジオーソの部分に、コントラバスのパートを書き加えて弦楽合奏に編曲した音楽である。そしてこの曲と相前後して書かれた、弦楽五重奏曲ト 長調の緩徐楽章にも、この部分は転用されている。ノスタルジックで美しい旋律の中 にも、ドヴォルザークとしては珍しく、ワーグナー風の和声や旋律法が感じられる。
■スターバト・マーテル 作品58
ドヴォルザークがこの「スターバト・マーテル」を書く、直接の動機になったのは、 30代になって相次いで見舞われた、家庭的な不幸に由来しているという。1875年に長 女に死なれ、次いで翌年の8月にはあと1ヶ月で満一歳になろうとする次女が、劇薬 を誤って飲んで死に、9月にはやがて4歳になろうとする長男が、天然痘に罹って死 んでしまった。既に彼はこの曲に取り掛かっていたのだが、子供たちの冥福を祈って 憑かれたように、作品を完成させたのであった。「スターバト・マーテル」とは、 “哀しみの聖母はたたずむ”の意味で、子供たちを失った父親の悲しみが、聴く者の 心にしみ込んで来るだろう。
第1曲:四重唱と合唱 アンダンテ・コン・モト ロ短調
最初管弦楽の序奏に始まり、やがて合唱が「悲しみ沈める御母は涙に咽びて、御子 の架かり給える十字架の下にたたずみ給え り」とうたい出す。次いでテノール独唱が暗いロ短調から、ニ長調に転調を遂げて、 「嘆き憂い悲しめる御魂は、鋭き刃もて貫かれ給えり」とうたい続ける。このテノー ル独唱に始まる四重唱を主とした比較的明るい部分が、中間部の役を果たして3部形式にまとめられている。10曲中これが最も長大で、全曲の約1/4近くを占めている。
第2曲:四重唱 アンダンテ・ソステヌート ホ短調
アルトが「キリストの御母かく悩み給えるをみて、誰か涙を流さざる者あらん」と うたい始めるが、中間部では「御母は、イエスが人々の罪のため、責められ、鞭打た るるをみ給えり」となり、独唱者たちが「聖母はまた最愛の御子が御死苦のうちに棄 てられ、息絶え給うを眺め給えり」とうたう。
第3曲:合唱 アンダンテ・コン・モト ハ短調
全曲中最も有名な部分で、単独に切り離してうたわれることも多い、葬送行進曲風 の音楽である。「悲しみの泉なる御母よ、我をして悲しみのほどを感じせしめ、とも に涙を流させ給え」と、合唱がうたう感銘深い部分だが短い。
第4曲:バス独唱と合唱 ラルゴ 変ロ短調
バスが「我が心をして、天主たるキリストを愛する火を燃えさしめ、一にその御心 を適わし給え」と嘆願する。すると女声合唱が天使の歌声のように、「ああ聖母よ、十字架に釘付けにせられ給える御子の傷を、我が心に深く印し給え」と応える。
第5曲:合唱 アンダンテ・コン・モト・クァジ・アレグレット ハ短調
なだらかな田園調の合唱曲で、「我がためにかく傷つけられ、苦しみ給いたる御子 の苦痛を、我に分かち給え」とうたわれる。
第6曲:テノール独唱と合唱 アンダンテ・コン・モト ロ長調
男声だけの4部に分けた合唱曲で、同じ歌詞、同じ旋律を大体交互にうたって行く、 清く澄んだデリケートな音楽。「命のあらん限り、御身とともに熱き涙を流し、はりつけられ給いしイエスと、苦しみをともにするを得さし給え」と、第1節の歌詞がう たわれるが、第2節では「我れ十字架のそばに御身と立ちて、相ともに嘆かんことを 望む」とうたわれる。
第7曲:合唱 ラルゴ イ長調
「童貞のうちいとも優れたる童貞、願わくば我を退け給わずして、ともに嘆くを得 させ給え」と祈る。この清らかな祈りの歌が、管弦楽の間奏を挟んで3度繰り返され、 その都度新たな展開をみせる。
第8曲:ソプラノとテノールの二重唱 ラルゲット ニ長調
やや長い前奏の後まずソプラノのみで、「我にキリストの死を負わしめ、その御苦 難をともにせしめ、その御傷を深く偲ばせ給え」とうたい出し、次にテノールを加えた二重唱で、その対位法的変奏を続けて行く。
第9曲:アルト独唱 アンダンテ・マエストーソ ニ短調
「聖なる処女よ、我に地獄の火に焼かれざらんために、審判の日に我を守り給え」 と、聖母に切に願う歌で、前の曲などとは対照的に、厳密な意味ではないが、バッハ、 ヘンデルのオラトリオの中のダ・カーポ・アリアを思わせる。
第10曲:四重唱と合唱 アンダンテ・コン・モト→アレグロ・モルト
ロ短調→ニ長調
第1曲で歎きの聖母を描いた材料を再び使いながら、「肉体は死して朽ちるとも、 霊魂には天国の永福をこうむらしめ給え」という歌詞で、アルトとバスのオクターヴ で始まる四重唱でうたう。次いで同じ歌詞を合唱で繰り返しながら、最初のクライマッ クスへ盛り上がる。そして第1曲以来初めて速度がアレグロ・モルトになって、「アー メン」二重フーガが始まる。これを四重唱と合唱と管弦楽とで、白熱的に盛り上げた後、7部から9部に分けられた合唱が、無伴奏の和声的なレチタティーヴォで、再び 「肉体は死して朽ちるとも」の歌詞を採り上げ、「永福を」には管弦楽のトゥッティ を加えて、fffにまで盛り上がった後、静かに曲は結ばれるのである。(無断転載を禁ずる)(C)出谷 啓