特別演奏会“春”/大阪シンフォニカー合唱団 第4回定期演奏会 2005年4月29日(金・祝)

■ジュゼッペ・ヴェルディ C 聖歌四篇(4つの宗教合唱曲)
この4つの聖歌は約10年にまたがって書かれたもので、そのうえ1つの作品として計画されたものではない。ヴェルディは最終的に4曲を1セットとして出版することに同意したが、最後まで気乗りはしなかったという。しかも最初のうちは《アヴェ・マリア》以外の3曲だけをまとめることを認めており、事実これらの3曲の初演は作曲者不在のままに1898年4月パリのオペラ座でおこなわれた。
《アヴェ・マリア》は1888年8月に Gazzetta Musicale di Mirano (ガゼッタ ムジカーレ ディ ミラーノ) 誌に 【C−D♭−E−F#−G#−A#−B−C】という増音程を含む謎の音階《Scala enigmatica》が掲載され、これにヴェルディが取り組んだ、本人からすると、いわば小手先仕事とみなしていたようだ。
《おとめ マリアへの賛歌》はイタリア中世の詩人ダンテの「神曲」の最後の詩より採られ、 《アヴェ・マリア》の数ヶ月前に構想されている。作曲当時のヴェルディは、他にオペラ『ファルスタッフ』(1893年初演)の作曲にかかっていた。もともとはコーラス作品ではなく4人の独唱者のために書かれており、パリでの初演でもソリストが歌っている。小編成コーラスとしたのは1898年11月のウィーン初演からであり、同時にこの時から《アヴェ・マリア》もセットに加えられた。
1896年の《テ・デウム》と1897年作曲の《スタバト・マーテル》は、97年10月25日彼の最後の作品として出版社に送られる。「残りの二つの曲を送ります。測り知れないほど辛い思いです。これらの作品がまだ机の上にあるうちは、時々満足して眺めていました。〜中略〜本当に辛いことです」と書き記しているヴェルディがこの作品を送った数週間後に、最愛の妻ジュゼッピーナがこの世を去った。
81歳の妻を介護しながら、人生最後の曲になるであろう作品を書いていた83歳のヴェルディを思うと、この曲の演奏には格別の思いを感じるのである…

イサーク・アルベニス C ピアノ協奏曲(幻想的協奏曲)
アルベニスの《ピアノ協奏曲》は確かな資料が存在しないのだが、おそらく関西では始めての演奏になる。
作品のスタイルは古典的な形式を踏襲しており、とりたててスペインの香りがするものでもない。しかしそのモチーフには深いロマンチシズムが漂い、1楽章の第2主題、2楽章前半のオーケストラの色彩感とそれにからむピアノは心に染み入る。 3楽章のピアノソロはショパンを髣髴とさせ、曲の締めくくりは明らかにドイツロマン派の形をとりいれているところなど、曲自体の完成度に斬新さを求めるのは難しいが、それよりも曲全体に漂う、そこはかとないノスタルジアを魅力としてこの曲を鑑賞していただき、本日のソリスト中務さんの華麗な音楽作りに耳を傾けていただきたい。

ルイス・バカロフ C ミサ・タンゴ
この曲は1999年4月2日、ローマでチョン・ミュンフン指揮のサンタ・チェチ−リア国立アカデミー管弦楽団と合唱団により初演され、録音されている。日本ではチョン・ミュンフン氏が一度、井上道義氏が2度演奏しているが、今回の大阪シンフォニカー合唱団の演奏が関西初演となる。
作曲者のルイス・バカロフはアルゼンチンの人で、1960年代よりイタリア、フランスで映画音楽の作曲家として活躍、1994年の『イル・ポスティーノ』でアカデミー賞を受賞している。
このミサで作曲者バカロフはラテン語の歌詞を使わず、母国アルゼンチンの国語スペイン語を使っている。そしてミサ通常文の、キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス デイが使用されているものの、その全文は完全に使われていない。 バカロフは初演の際にこう述べている。
「信仰を必ずしも同じくしない人々のためにも開かれたものにしたいという野望があるのです。信仰とは、ミサにおいて神という解釈を強調するキリスト教、ユダヤ教、イスラム教に共通のものです」
この曲の大きな特長のひとつは、やはりバンドネオンの使用であろう。発明者であるドイツの製造メーカーの、ハインリッヒ・バント Heinrich Band にちなんで名づけられたこの楽器は、いうまでもなくタンゴの世界では花形楽器であるが、シンフォニーオーケストラと共演することはまず無いはずだ。
キリエの冒頭、合唱団の投げかけた《セニョール(主よ)》という言葉に呼応するのは物悲しいバンドネオンの響き、これだけで聞くものの耳をバカロフの世界に引き込む。今日の演奏会では日本のバンドネオン奏者の第一人者、門奈氏をお呼び出来たことを大変光栄に思う。
「グロリア」や「クレド」ではハリウッド張りのシンフォニックサウンドが炸裂するし、「サンクトゥス」でのバンドネオンとチェロの絡み合いは今日の聴きものであるのは間違いない。
曲は静かに閉じる…最後のひと句は
 da nos la paz われらに平和を 
切に願いたいものだ。

(無断転載を禁ずる)(C)指揮:牧村邦彦
大阪シンフォニカー合唱団音楽監督

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