2010年07月04日《第62回名曲コンサート~曲目解説》

ラヴェル:バレエ音楽「マ・メール・ロア」組曲
 まずは目を閉じて、聴こえる音に耳をすませて下さい。子供の頃に読んだ絵本にあった、深い森に分け入ってゆく気分になりませんか。「マ・メール・ロア」とは、有名な童話集「マザー・グース」のこと。フランス近代を代表する作曲家、モーリス・ラヴェル(1875~1937)は、友人の子供たちのため、易しいピアノ連弾曲として1910年にこの曲を書き上げました。その後、自身の手で編曲し、今日、皆さんに聴いていただく管弦楽のための組曲となりました。さらに、曲順を入れ替えて前奏曲や間奏曲を書き加えた、バレエ音楽版も存在します。
 フルートの音色が美しいパヴァーヌは、穏やかな表情で眠りこける美女。やがて、森に捨てられた一寸法師が姿を見せます。帰り道を分かるようにと彼がこっそり撒いていたパンくずは、鳥たちが食べてしまいました。続いて、中国で作られた陶器の首振り人形たちの合奏が聴こえてきます。優雅さと鈍重さが交錯するワルツは、美女と野獣との対話。そして、ヴァイオリン・ソロとチェレスタの旋律が優しい妖精の庭へ。喜びも悲しみも織り交ぜて、物語はやがて大団円を迎えます。

ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
 1928年、アメリカ演奏旅行を大成功で終えたラヴェルは、すぐに2度目の訪米を計画。そこで自身がソリストとして演奏するため、ピアノ協奏曲の作曲に取り掛かりました。しかし、翌年から「左手のためのピアノ協奏曲」と同時進行の作業となったため完成が遅れ、結局は3年を費やしました。「(ソロを中心に据えた)文字通りの意味での『協奏曲』で、モーツァルトやサン=サーンスの作品と同様の精神に基づき作曲した」と作曲者は書き残しています。鞭のひと打ちで始まる玩具箱のような第1楽章と、都会の喧騒を思わせる終楽章にはジャズのスパイスが効いています。それらに挟まれた、天上の光が降り注ぐ第2楽章の何と美しいこと。この曲の独特な雰囲気を愛するアーティストも数多く、そう言えば、大人気コミック「のだめカンタービレ」でも、重要な小道具になっていましたね。

ビゼー:「カルメン」第一組曲、第二組曲
 オペラを観た経験がない人でも、「カルメン」の旋律のいくつかはきっとご存じでしょう。セビリアを舞台に情熱的な美女カルメンを巡る三角関係と悲劇的な死を描いたプロスペル・メリメの小説に基づき、ジョルジュ・ビゼー(1838~75)が書いた全4幕のオペラは作曲者の最後の年に初演されましたが、評判はいまひとつ。しかし、後に再演されると人気に火がつき、今や最も有名なオペラ作品のひとつとなりました。今日、演奏されるふたつの組曲は、1873年生まれ(没年不明)のフリッツ・ホフマンによって編まれました。
 第一組曲は前奏曲や間奏曲を中心とした5曲、第二組曲はアリアや合唱曲から6曲の計11曲で構成されますが、本日のステージでは物語に合わせて曲を選び、入れ替えて演奏します。有名な「闘牛士の行進」で幕を開けると、悲劇を暗示する前奏曲へ。可愛い子供たちの合唱「衛兵の交代」、スペイン趣味の色濃い「アラゴネーズ」、これも有名なカルメンの情熱的なアリア「ハバネラ」、ドン・ホセが歌う「アルカラの竜騎兵」を挟んで、フルートが美しい「間奏曲」、少し不穏な雰囲気の「密輸入者の行進」、またまた有名な「闘牛士の歌」と続き、スペインの民俗舞曲「セギデーリャ」が奏でられます。そして、最後は「ジプシーの踊り」。熱狂の余韻はいつまでも続きます。

 寺西 肇(音楽ジャーナリスト)