2011年01月16日《第64回名曲コンサート~曲目解説》

 新年の第1回となる名曲コンサートは、「ワルツ王」ことヨハン・シュトラウスⅡ世(1825~99)の作品を中心に、ウィーン情緒をたっぷりお届けします。
 まずは、喜歌劇「こうもり」序曲で幕開け。1874年に初演された「こうもり」は、ある博士が昔いたずらされた友人に仕返しをする他愛のない物語ですが、音楽や舞台進行にウィーンの粋がいっぱいで、地元っ子に愛されています。劇中の旋律を詰め込んだ華やかな序曲に続き、ソプラノの日紫喜さんが登場し、小間使いアデーレのクプレ(リフレインを伴う風刺の効いた歌曲)“公爵様、あなたのようなお方は”を歌います。続くチク‐タク‐ポルカは、「こうもり」第2幕の二重唱「あの上品な態度」を基に作られました。そして、再びアデーレが登場し、クプレ“田舎娘をやるときは”を披露してコケティッシュな魅力をふりまきます。
 寛ぎの中にも上品さを感じさせるアンネン・ポルカは1852年に作曲され、オーストリア皇后マリア・アンナに捧げられました。1869年に弟のヨーゼフ(1827~70)と共作したピッツィカート・ポルカは弦楽器奏者が弓を置き、弦を指ではじいて演奏します。優雅なワルツ「南国のバラ」は自作の喜歌劇「女王のハンカチーフ」の劇中の旋律を用いて、1880年に作られました。東欧の大衆音楽の要素を巧みに採り入れて人気を博したハンガリー出身のエメリッヒ・カールマン(1882~1952)が、1915年に作曲したのが「チャルダッシュの女王」です。身分違いの男女が、友人たちの協力で恋を成就する物語。ヒロインの歌姫シルヴァが“ハイア、ハイア、山こそわが故郷”で「戯れの恋はお断りよ…」と歌います。

 後半の最初に演奏されるワルツ「春の声」は1883年、名ソプラノ歌手のビアンカ・ビアンキの求めにより、オーケストラ伴奏つきの歌曲として発表。その前年、シュトラウスがリストとパーティで同席した折に余興で作った曲が元になったとされます。ところで、ポルカの中には、様々な効果音を伴う作品がたくさんありますね。弟ヨーゼフが1870年に作曲したポルカ「鍛冶屋」も有名なもののひとつ。鉄床(かなどこ)などと呼ばれる、金属加工に使う作業台をハンマーで叩く「チン、チン」という音が響きます。ロシア演奏旅行中の1858年に書いたポルカ「シャンペン」では、コルクを抜く音が楽しい宴を演出。1875年作曲のポルカ「狩り」では、狩猟ホルンの金管が開始を告げ、鉄砲や鞭の音が聞こえます。
 フランツ・レハール(1870~1948)はドヴォルザークに学んだ喜歌劇の大家。1902年、侯爵夫人が主催する舞踏会のため、テーマカラーに基づいて書いたワルツ「金と銀」はシュトラウス以来、最も愛されているウィンナ・ワルツのひとつです。その3年後に書かれ、彼の名声を不動にした喜歌劇「メリー・ウィドウ」からは、ヒロインのハンナが故郷を思い歌う“ヴィリアの歌”を。トリはもちろん、“オーストリア第2の国歌”とまで愛されるワルツ「美しく青きドナウ」。1866年、シュトラウスが敗戦に沈む祖国を勇気づけようと作曲しました。後に、ブラームスが作曲者の娘からサインを乞われた際、この曲の冒頭の楽譜を記して「残念ながら、ブラームス作に非ず」と書き添えたとの逸話は有名です。

 寺西 肇(音楽ジャーナリスト)