2005年09月25日 第10回淡路島定期演奏会 曲目解説
2005年09月28日 第103回定期演奏会 曲目解説
◆ウェーバー:歌劇 「オベロン」 J.306 序曲
ウェーバー(1786-1826)はドイツ・ロマン派初期の作曲家で、国民主義の立場から「魔弾の射手」(1821)のようなドイツ語のオペラを創作してワーグナーの楽劇への道を開きました。「オベロン」はイギリスのコヴェント・ガーデンからの依頼で書かれた英語のオペラで、妖精の王様オベロンが后のティターニアと男女の愛について口論になり、苦難に耐えて愛を貫く恋人たちを見つけるまでは口をきかないことになりますが、廷臣パックの気転でめでたく理想のカップルを見つけるという話です。枠組みはシェイクスピア「夏の夜の夢」と同じですが、本編の劇中劇はドイツ人・ヴィーラントの同名の詩を英訳・脚色した台本をもとにしています。フランス・シャルルマーニュ大王の騎士ヒュオンがバクダッド太守の娘レチアを求めて、難船の試練にあいながらも魔法の角笛に救われるというイギリス人好みの荒唐無稽なプロットです。初演はロンドンに出張した作曲者の指揮で1826年4月12日に行われました。なかなかの名アリアもあり拍手喝采でしたが、作曲者が現地に客死して、その後は何度も改作・再演が試みられたにもかかわらず、レパートリとしては定着しませんでした。しかし序曲は波乱万丈の全編をソナタ形式でドラマティックにまとめて、今もよく演奏されます。ホルンの魔法の角笛が印象的です。

◆ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」
ベートーヴェン(1770-1827)はいうまでもなくドイツ・オーストリア系のクラシック音楽を代表する作曲家ですが、まずピアニストとして有名になりました。32曲あるピアノ・ソナタもシンガー・ソングライターのように自作自演で、ピアニストが作曲もするというのが時代の姿勢でした。5曲のピアノ協奏曲も第4番までは自分でピアノを弾いて初演しています。しかし第3番を作曲中に聴覚障害を自覚して、ハイリゲンシュタットの遺書(1802)を書き、自分の人生と芸術の将来に新しい決意を持って創作活動は頂点を極めますが、オーケストラとの協奏は無理になります。第5番は1809年の作曲ですが、ナポレオン軍のウィーン進駐など、戦争の影響で初演は遅れて、1811年11月28日、ライプツィヒのパウリーネ教会オルガン奏者だったヨハン・フリードリッヒ・シュナイダーのソロによってゲヴァントハウスで行われました。弟子のチェルニーのソロが翌年2月15日に延びたのは、マスターするのに時間がかかったからだと思われます。以後ベートーヴェンの生きている間に再演された記録はありません。「皇帝」という標題は作曲者が付けたものではありませんが、豪華で壮大な曲想をうまく捉えたエピセットで、「皇帝」をいちばん弾きたかったのは英雄好みのベートーヴェンその人だったでしょう。第1楽章が長く、第2楽章と第3楽章は続けて演奏されるので実質的には2部構成ですが、日本人の序破急の感覚にも通じます。
第1楽章(アレグロ)は変ホ長調(4/4拍子)の協奏曲ふうソナタ形式で、オーケストラの力強い和音に続くピアノ・ソロで始まります。第1主題はヴァイオリンのフォルテの壮大なメロディーで、第2主題は対照的にピアニッシモのスタッカートです。明るい調性と威風堂々としたマーチのリズムが荘重感を強めています。
第2楽章(アダージョ・ウン・ポーコ・モッソ)はロ長調(4/4拍子)で、弱音器を付けたヴァイオリンのメロディーを即興的・幻想的に変奏していく緩徐楽章です。最後は消え入るようなムードの中でピアノが次の主題を暗示してそのまま終楽章に続きます。
第3楽章(ロンド アレグロ)は変ホ長調(6/8拍子)で、ピアノの主題がフォルティシモで全体像を現します。対照的に軽やかなピアノの副主題にも回音やトリルの修飾が印象的で、きらびやかなロンドの舞台になります。

◆ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 Op.67 「運命」
「運命」ほどよく知られたシンフォニーはないでしょう。「運命の動機」(タタタターン)は日本では小学生から一般のサラリーマンまで、運命的な予言や予兆のシンボルとして日常的に使われています。戦前の小学唱歌と並んで、戦後の音楽教育の成果でしょうか。ベートーヴェンが「運命はかく戸を叩く」と語ったという逸話は弟子シンドラーの作り話で、作曲者自身が「運命」と標題したわけではないにしても、あの音形が「運命」を象徴する符牒として認識されるのは当時の音楽状況でもふつうの感覚でした。ベートーヴェンの創意はその単純明快な音形を発展させて、前人未到のシンフォニーを創作したところにあります。作曲は1807年に集中して1808年に完成、初演は1808年12月22日、ベートーヴェン自身の指揮によって、アン・デア・ウィーン劇場で行われました。ロブコビッツ侯爵とラズモフスキー伯爵に献呈されていますが、第4番を献呈したオッペルスドルフ伯爵の新作委嘱が重要な推進力になっています。ベートーヴェンのパトロンは旧体制の貴族たちで、ハ短調の勇壮な曲想もベートーヴェン好みというだけではなく、ヨーロッパのサムライ貴族たちのお気に入りでした。第3楽章と第4楽章は続けて演奏されるので実質的には3部構成です。
第1楽章(アレグロ・コン・ブリオ)はハ短調(2/4拍子)のソナタ形式で、有名な運命の動機が第1主題、第2主題はホルンの先導でヴァイオリンが対照的なドルチェの動機を奏でます。
第2楽章(アンダンテ・コン・モート)は変イ長調(3/8拍子)の2つの主題を持った変奏曲で、第1主題は低弦、第2主題は木管に現れて変奏が続きます。
第3楽章(スケルツォ アレグロ)はハ短調(3/4拍子)の3部形式で、低弦の主題に始まり、運命の動機も変形して再現します。中間のトリオは低弦から始まるフガートで、「象のダンス」と仇名されました。最後はピアニッシモからクレッシェンドでフォルティッシモの終楽章に続きます。
第4楽章(アレグロ)はハ長調(4/4拍子)のソナタ形式で、全合奏の第1主題には「苦悩を通じて歓喜にいたる」という第9番に通じる主張が表現されます。第2主題では運命の動機のリズムを回想します。
(無断転載を禁ずる) 音楽評論家 鴫 原 眞 一 (C)

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