2006年03月10日 第107回定期演奏会曲目解説
ブラームスの傑作2曲とベートーヴェンの劇的序曲。その濃密なロマンのうねりは、大山平一郎と大阪シンフォニカー交響楽団1年半の成果を問うのに相応しいプログラムである。さらに、風格を増すヴァイオリニスト、竹澤恭子のシンフォニカー響初登場が音楽的にも話題的にも止めを刺す。メモリアルシーズンを締めくくるのにこれ以上望めない定期演奏会と言える。

ベートーヴェン:劇音楽《エグモント》序曲 Op.84
 ゲーテの戯曲『エグモント』は、16世紀スペイン圧政下のオランダで、独立のために立ち上がり悲劇的な最期を遂げた英雄エグモント伯の生涯を描いている。ベートーヴェンはゲーテを敬愛し、この戯曲を気に入っていたので付随音楽作曲の依頼を引き受けた。1810年に完成。序曲と、ソプラノのための歌曲2曲を含む9曲からなっている。現在では序曲以外は忘れ去られた感がある。

 編成:フルート2(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦楽5部。
曲の構成:ヘ短調 ソナタ形式 ソステヌート・マ・ノン・トロッポの序奏は悲壮感と孤独感の応答が雰囲気を盛り上げる。アレグロの提示部、第1主題はドラマティックな起伏に富み、第2主題は英雄の強さと優しさを感じさせる。両主題共に序奏との緊密な関係がある。展開部はごく短い。再現部を経て、アレグロ・コン・ブリオのコーダはヘ長調に変わり、劇終幕の音楽をほとんどそのまま使用して熱狂的に高揚する。強靱さと緊張感漲り、劇を見事に象徴する名序曲と言える。

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77 ブラームスは、彼より2歳年長で、若い時から公私共に世話になっていた親友の名ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムを念頭にこの曲を作曲した。1878年7月初旬に作曲が始められ、8月21日には早くも第1楽章の独奏ヴァイオリン・パートの助言をヨアヒムに求めている。ヨアヒムも積極的に助言を与え、また、作曲が進まず気をもみながらもカデンツァを作曲、翌年1月1日初演の段取りを付けている。当初4楽章制を目指したが、3楽章におさまり78年暮れに完成した。初演はライプツィヒのゲヴァントハウスでブラームスの指揮によって行われた。

編成:独奏ヴァイオリン、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦楽5部。

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ニ長調 3/4拍子 協奏的ソナタ形式 ヴィオラ、チェロとファゴットが第1主題を柔らかく歌い出す。緊張の頂点で独奏ヴァイオリンがカデンツァ風に陰影の襞を熱情的に聴かせ、その後第1主題をしなやかに歌う。第2主題は独奏ヴァイオリンが弦のピツィカートに乗って伸びやかに提示。内面的な翳りとしなやかな叙情でドラマティックに展開する。カデンツァはヨアヒムの他にアウアー、クライスラー、ブッシュ、ブゾーニなどがある。演奏時間の半分以上を要する重厚な楽章である。

第2楽章 アダージョ ヘ長調 2/4拍子 三部形式 主部はオーボエを中心に管楽器が優しく美しい旋律を奏で、独奏ヴァイオリンが受け継ぐ。まったりとした叙情に浸れる。管の部分の長さがサラサーテを始め多くの批評家の批判をあびた。

第3楽章 アレグロ・ジョコーソ・マ・ノン・トロッポ・ヴィヴァーチェ ニ長調 2/4拍子 ロンド形式 ロンド主題はジプシー風の生気に満ちた表情を持っている。独奏ヴァイオリンのヴィルトゥオジティが変化に富んだリズムで華やかに情熱的に躍る。

ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調 Op.98
 52歳の時に作曲されたこの最後の交響曲はまさに“ブラームス”と言える。古典様式への傾注は、教会旋法やバッハ以来すたれていたシャコンヌへと結実する。また、内面性においても、憂愁、孤独、鬱々たる熱情が最も深く厳しい形で表現されている。温故知新と深い内省。現代に生きる我々がどこかに置き忘れてしまったものを教えてくれる傑作だ。1884年夏に第2楽章から着手され、翌年第3楽章を書き上げて完成した。1885年10月25日、マイニンゲンの領主公宮廷劇場の宮廷楽団第3回予約演奏会で、ブラームスの指揮によって初演された。

編成:フルート2(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、トライアングル、弦楽5部。

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ホ短調 2/2拍子 ソナタ形式 ヴァイオリンが切々と訴えるように第1主題を歌い始める。第2主題は強靱でパッショネイトに現れる。展開部は憂愁と内的燃焼がせめぎあい、大きな起伏で思いの丈が吐露される。

第2楽章 アンダンテ・モデラート ホ長調 6/8拍子 展開部を欠くソナタ形式 フリギア旋法という古い教会旋法が、長調ながらひなびた暗さを感じさせる。寂寥の色彩が細密にうつろいたゆたうのが魅力的である。

第3楽章 アレグロ・ジョコーソ ハ長調 2/4拍子 ソナタ形式 一種のスケルツォ。熱狂を叩きつける第1主題。なぐさめとも寂しさともとれる第2主題。熱狂が孤独を際立たせる。トライアングルの響きが印象的。

第4楽章 アレグロ・エネルジコ・エ・パッショナート ホ短調 3/4拍子 シャコンヌ 8小節の主題と31の変奏からなるが、ソナタ形式に見立てることもできる。巧緻を極めた書法と内面性が見事に結実した完成度の高さ。鬱々と燃焼する熱情のうねりは、強靱な意志力に貫かれて雄弁にして感動的である。

(無断転載を禁ずる) (C)諏 訪 節 生

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