第79回定期演奏会・楽曲解説

◆『空華・クハプシュパ〜二胡と中国琵琶のための』(城之内ミサさんからのメッセージ)
指揮者である曽我大介さんから委嘱作品の依頼を受け、大阪シンフォニカー交響楽団のリハーサルを拝見した時、私の心に「思いを馳せる」という言葉が浮かびました。大好きな言葉なのですが、演奏を聞かせて頂きながら、きっといつも彼等は音楽と真摯に向かい合い、観客の皆さんに思いを馳せているのだろうなと、
そんな空気が伝わる演奏だったのを覚えています。
『空華・クハプシュパ〜二胡と中国琵琶のための』は、「魂と天との内省的対話」がテーマです。二胡、中国琵琶はその音色から、人の叫び、嘆き、慈しみ、心の綾、はかなさを。オーケストラは天の愛、悟し、光、赦しをイメージして作曲しました。「空華」とは「くうげ」と読みます。「見えないものでも心の眼を持てばやがて見えるようになる。空に華を見るように」。仏教用語ですが、私は勝手にこのような解釈をしました。
ソリストお二人の表現力の豊かさとオーケストラの美しく魂のこもった演奏が、聞いて下さった方の心に届きますようにと、祈るような気持ちで、私も思いを馳せています。演奏してくださる皆さんと、聞いてくださった方々に、心からのお礼をこめて。

◆リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
 文学が醸し出す情感や理念を音楽で表現しようとするのが、交響詩と呼ばれる管弦楽曲。ミュンヘンの宮廷ホルン奏者の息子として生まれたリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)は、リストが言い出しっぺとなった交響詩なるこの単一楽章標題管弦楽曲を次々と発表、このジャンルをコンサートホールに不滅のものとした。
 この標題音楽の神様の音楽では、全ての音が記号。その一方、ロンドやソナタ形式など抽象的な古典派音楽の形式分析を行っても、それはそれできちんと筋が通る。ちなみにこの作品は、短い序奏付きの2主題によるソナタ形式。1889年にワイマールで初演され、圧倒的な成功を収めた作者初の完成した交響詩には、総譜最初の頁に浪漫派詩人ニコラウス・レーナウの詩「ドン・ファン」が掲げられている。その大意を以下に記す。永遠の女を追い求め、結局求められぬ色男の挫折の物語だ。
『多彩な色香漂う麗しき女の性の魔力が紡ぐ輪の中で、私は歓喜の嵐に揉まれ、すべての女の接吻に滅びたい。麗しき女人のあるところ、世の果てまで赴き、刹那であれ、勝利を得たい。…私が敬愛するのは、全ての女性なる存在だ。今日は香しいひとりの女の吐息も、明日は私を憂鬱にする。それぞれの愛は異なる。情熱は常に新鮮だ。情熱は渡り歩くものではない。ひとつところで滅し、また新たな場所で開花する。だから若き炎が燃える限り、新たな勝利を求めて進もう。世の美がそれぞれ異なるように、その美が与える愛も異なる。…私を駆り立てたのは、麗しき激情だった。が、それも過ぎ去り、残ったのは魂の平静。私の欲望と望みは、静止状態にある。おそらく、天の稲妻が私の愛の力に致命傷を負わせ、私の世界は突如暗転したのだ。いや、そうではないのかもしれぬ。――愛の源は枯渇し、炉端は冷たく、暗いにせよ。』

◆サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」
 《動物の謝肉祭》の御陰で、皮肉で小粋な小品の名人と思われがちなサン=サーンス(1835-1921)だが、フランス音楽に真の古典性を確立すべく努力した国民主義作曲家なのである。晩年は長生きし過ぎた天才の悲哀を味わうものの、ロマン派時代に対応した、知性に振れたフランス音楽趣味の代表だ。
 亡くなる直前のリストに捧げた1886年の第3交響曲は、豪奢な大盤振る舞いの音楽。オルガンと大管弦楽が渡り合う殆ど史上唯一の交響曲で、盛んに演奏される豪奢な傑作であることに異論はないのだが、見かけの分かり易さの一方、不可思議な点も多々ある。実質的な古典派4楽章をなぜ2楽章にする必要があったのか、なぜこんな大規模に楽器を導入したか、オルガンやピアノのバランスをどう処理するつもりか…でも、第2楽章第2部で壮大なハ長調の和音が鳴った途端、そんな疑問が全部吹き飛ぶのだから、全てを知り抜いた策士の老獪な荒技に脱帽である。
 第1楽章第1部、短いアダージョ序奏の後、アレグロ・モデラートの主部、一種のソナタ形式楽章。弦が出す循環主題の焦燥感に、伸びやかな管の呟きが対比される。
第1ヴァイオリンが変ニ長調で優雅な第2主題を歌い出しても、第2ヴァイオリンとヴィオラが細かく刻む16分音符が耳を離れない。
 フェルマータの付いた全休符の後、変ニ長調のポコアダージョ第2部で、オルガンがピアニッシモで登場。讃美歌伴奏のように厚い和音を響かせる。第1と第2ヴァイオリンが導く弦4部の16分音符による掛け合いも、静けさの中に展開される。コントラバスのピチカートがハ短調主題を回想。
 第2楽章は、3部形式が崩れたスケルツォと、壮大なフィナーレの合体。再び16分音符が支配するアレグロ・モデラートでは、プレストのトリオではピアノが駆け抜け、トライアングル、シンバルも鳴り響く。やがて忙しないピアノを背景に金管群のファンファーレが立ち上がり、推移部へ。
 マエストーソの第2部。待ちに待った真打ちオルガンが、壮大にハ長調和音を鳴らす。4手ピアノが32分音符を振り撒く前で、ハ長調に変容した循環主題を、フォルテッシモのオルガンと弦楽器が高らかに奏でる。フガートでアレグロに入ると、オーボエが歌う副主題や、天使の合奏のようなトロンボーン合奏まで登場し、クライマックスへ。
(無断転載を禁ずる)(C)渡辺 和 音楽ジャーナリスト

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