第84回定期演奏会・楽曲解説
イギリス最大の劇作家シェイクスピア(1564〜1616)の戯曲は、彼以後の多くの作曲家たちの創作意欲を刺激し、数々の名曲を生ましめてきた。中でも「ロメオとジュリエット」に関連した音楽作品は多く、他に比してとりわけ広く親しまれていると言える。今回はその「ロメオとジュリエット」を題材とした名曲を集めたプログラムである。
グノー:歌劇「ロメオとジュリエット」から“私は夢に生きたい”
グノー(1818〜1893)は19世紀後半のフランス・ロマン派歌劇の代表的作曲家で、代表作は「ファウスト」だろうが、それから7年後の1867年に書き上げられたのが「ロメオとジュリエット」である。プロコフィエフのバレエが原作から少し離れた展開を見せるのに対し、グノーの歌劇は原作に比較的忠実に従っている。“私は夢に生きたい”は、第1幕のキャピュレット家の仮面舞踏会でジュリエットが歌うアリアで、《ジュリエットのワルツ》としても知られる。ここでのジュリエットはまだロメオに会っておらず、漠然とした恋心と青春のはかなさを歌い上げる。
プロコフィエフ:「ロメオとジュリエット」組曲 Op.64から抜粋
プロコフィエフ(1891〜1953)はロシア革命を逃れて1918年からアメリカやヨーロッパで活躍していたが、1927年に革命後初めて祖国ソ連を訪れ、最終的には1935年に帰国する。そしてソ連に復帰した際の最も代表的な傑作に数えられているのが、バレエ音楽「ロメオとジュリエット」である。作曲は1934年夏から翌年春にかけて行われ、バレエとしては1938年12月に初演された。しかしプロコフィエフは、バレエ音楽が完成した時点で、その音楽から7曲ずつを選んだ2つの演奏会用組曲も作っており、それらはバレエに先駆けて、第1組曲(作品64bis)は1936年11月、第2組曲(作品64ter)は1936年12月に初演されている。ちなみにプロコフィエフは1944年には、さらに6曲からなる第3組曲(作品101)も作っている。
ところが実際のコンサートやレコーディングの場においては、この組曲の形で演奏することは比較的少なく、むしろバレエ全曲(ある意味では組曲からとも言えるが)から適宜抜粋して演奏されることが多い。それは演奏に要する時間的な問題とか聴かせ所を集めたいとか、あるいは指揮者の各曲に対する好みといったことが関係しているのだろう。今回もそのような抜粋で演奏される。
チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
チャイコフスキー(1840〜1893)は、シェイクスピアの戯曲に基づく管弦楽曲を3曲残したが、その最初の作品が1869年作の「ロメオとジュリエット」である。しかしチャイコフスキーがこれを作曲することにしたのは、自らの思い付きではなく、友人のバラキレフの勧めがあったからである。とは言え、作曲の動機が自らの意志ではなかったにしても、これはチャイコフスキーの初期の最も傑出した作品となった。なお彼は1870年の初演ののち、かなり手を加えてからバラキレフに献呈しており、その後も補筆訂正を行なって1881年に現在知られる最終稿を作り上げた。
曲は、長く荘重な序奏から始まる。ロシア正教会の讃歌のような宗教的なハーモニーをクラリネットとファゴットが響かせ、おごそかな気分が続く。やがてアレグロでソナタ形式の主部に入り、モンターギュ家とキャピュレット家の反目する様子を示す第1主題、そしてロメオとジュリエットの美しくも悲しい恋を描く優美な第2主題を中心に、副次的なロマンティックな旋律をからませながら進行し、恋人同士の死と永遠の安息を暗示するように曲を閉じる。
バーンスタイン:「ウェスト・サイド・ストーリー」から“サムウェア”“シンフォニック・ダンス”
バーンスタイン(1918〜1990)の「ウェスト・サイド・ストーリー」は、改めて述べるまでもなく、空前の大ヒットとなったミュージカルである。1957年に作曲されたこのミュージカルは、同年秋に初演されて以来、絶大な人気を博し、1961年には映画化されて、その人気に拍車をかけた。大都会ニューヨークの貧民街ウェスト・サイドにたむろする2組の不良少年団の対立を、「ロメオとジュリエット」における2派閥の敵対関係に擬して描いたこのミュージカルは、バーンスタインのすばらしい音楽やジェローム・ロビンズの名振付けなどによって大いに楽しめるものとなっており、その魅力は今なお衰えていないと言える。
今回、まず演奏されるのは“サムウェア”だが、これはステージではトニーとマリアの夢の中を描いたシーンに登場する曲で、《少女》と称される一人の歌い手が、ジェット団とシャーク団の和睦、つまりはトニーとマリアの愛の成就を願うものとして歌われる。ちなみに映画ではトニーとマリアの二重唱で歌われている。
もう1曲の“シンフォニック・ダンス”は、本来は視覚を伴うミュージカルながら、その音楽が聴くだけでも十分に魅力的であることから、「ウェスト・サイド・ストーリー」の中の音楽に基づいて、視覚を前提としない、つまりシンフォニックなオーケストラのための作品として編曲されたもの。編曲は、作曲者であるバーンスタインの監修のもと、ステージでのミュージカルにおいてオーケストレーションを担当したシド・ラミンとアーウィン・コスタルによって行なわれ、ミュージカルの名旋律を交響的な接続曲風にまとめたものとなっている。曲はまず、ミュージカル冒頭でジェット団とシャーク団との確執の様子が描かれる場面での音楽「プロローグ」で始まり、続いて「恋は永遠に」「体育館のダンス(スケルツォ、マンボ、チャチャ)」「マリア」「クール」「ランブル」「私は愛している」そして再び「恋は永遠に」に基づく「フィナーレ」が切れ目なく演奏される。
(無断転載を禁ずる)(C)福本 健