2004年6月10日 第93回定期演奏会曲目解説
ベートーヴェン、シューベルト、ウェーバーを継ぐロマン派の音楽の時代に生きたロベルト・シューマン(1810-56年)は、ツヴィッカウのギムナジュウム在学中、「詩編150」「大オーケストラのための序曲と合唱」(1822年)を作曲し、ピアニストとしての才能も顕著に示す一方、文学に傾倒し詩集集成や詩作を行い、前期ドイツロマン派ジャン・パウルの著作やシューベルトの音楽に熱中した。1828年はシューマンに大きい転機をもたらした。シューベルト、ウェーバー、父の死、母の願いでライプツィヒ大学法科に進学、フリードリヒ・ヴィークにピアノを師事、その娘クララと出会う。シューマンは作曲やピアノ演奏に熱中し1830年、法律を捨てて音楽家になることを決意。1831年、この頃に書いた小説「神童たち」の登場人物フロレスタンとオイゼビュウスはシューマンの分身として象徴化される。1832-34年にかけて創作の勢いは増すが、右手の障害で演奏家としての夢は崩れ音楽雑誌の仕事に取り組み、交響曲や管弦楽曲の創作の夢を抱く。1834年、結婚に反対するクララの父との裁判は1840年に勝訴、クララと結婚したこの年は「リーダークライス」「詩人の恋」「女の愛と生涯」など多くの歌曲が作曲され「歌の年」と呼ばれる。1841年、シューマンは交響楽的作品の創作に目を向け、交響曲第1番「春」、ピアノ協奏曲イ短調第1楽章が完成、クララを喜ばせた。1844年、クララのロシア演奏旅行に同行したシューマンは旅の疲れとストレスから健康を損ない病状悪化からドレスデンへの移住を決意、1844-55年にかけてドレスデンでの創作活動はシューマンの創作の頂点となった。これから演奏される「マンフレッド序曲 Op.115」「ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54」「交響曲 第2番 Op.61」はドレスデン時代の代表的作品である。

シューマン:劇音楽「マンフレッド」序曲 変ホ短調 Op.115
1847年からシューマンの創作はオペラに向けられオペラ「ゲノヴェーヴァ」に続き、1848年夏からバイロンの劇詩による劇音楽「マンフレッド」に取りかかり、11月にかけて全曲を完成した。「マンフレッド」は多感な青年マンフレッドが放浪の旅の末、黄泉の国でかつて捨て去った恋人アスタルテの霊とめぐり会い、その許しを乞うことによって魂が救済されるという筋書。序曲は1852年3月14日ライプツィヒで初演された。  序曲は大きく序奏―主部(ソナタ形式)―コーダで構成され、序奏部は緩やかなオーボエ・ソロの旋律がマンフレッドを特徴づける。次第にテンポを速めてトランペットの高鳴りとともに激情的な主部に入り、管・弦による第1主題奏、第1ヴァイオリンによる副主題部(3つの主題要素から成る)のあと、展開部に入る。程なく、静かなフルートとトランペットの最弱奏へと向かう。マンフレッドとアスタルテの霊の静かな対話を感じさせるシーンのあと、再び激しさを加えて再現部に入る。主題が絡み合いコーダへ進み、緩やかな序奏のテンポで二つの主題が断片的に奏され、魂が救われるかのように静かに終わる。

シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54
シューマンは1845年1月に入ってからクララに対位法を教え始めるなどドレスデンで次第に精神的な落ち着きを取り戻していく。そしてシューマンは1841年にライプツィヒで書いた「ピアノと管弦楽のための幻想曲イ短調」に5月から7月にかけて「ピアノと管弦楽のためのロンド」と「インテルメッツォ」を書き加えて「ピアノ協奏曲イ短調」を完成した。曲は1846年1月1日ライプツィヒ・ゲヴァントハウスでクララによって初演された。
第1楽章 イ短調 4/4拍子 ソナタ形式 冒頭の第1主題はその中の下降音型がクララのモットー(反復楽句)としてこの楽章を様々な色合いで特徴づける。この第2主題はハ長調に転じて奏され、二つの主題で展開される。最後のシューマン自身によるピアノ・カデンツはまさにクララとの愛の記念碑。
第2楽章 インテルメッツォ ヘ長調 2/4拍子 三部形式 主部の主題はクララのモットーの余韻を漂わせ、ゆっくりと優雅に秘めやかな愛の囁き、中間部はチェロの旋律に乗ってピアノが奏でる深い思いを弦と木管が引き継ぐ。再び主部に戻り、クララのモットーの反復とともに終楽章に入る。
第3楽章 イ長調 3/4拍子 ソナタ形式 終楽章は生き生きと明るい希望に満ちた主題で始まる。軽い足取りで奏される第2主題はシンコペーションや複リズムの試みに興じるシューマンの姿が目に浮かぶ。喜々とした独奏ピアノの展開はオーケストラの全奏とともに高まり力強く全曲を結ぶ。

シューマン:交響曲 第2番 ハ長調 Op.61
1845年12月「交響曲第2番」はドレスデンで書き始められたが、その後、聴覚神経の変調などで作曲は中断、漸く1846年10月に完成、11月5日ライプツィヒでメンデルスゾーンの指揮で初演。シューマンの苦悩の克服を伝える交響曲である。
第1楽章 ハ長調 6/4拍子シューマンが「病気との闘いに満ちている」と述べたこの楽章はホルン、トランペット、アルト・トロンボ ーンによる最弱音のモットーで導入され、テンポを速めて主部に入る。曲は二つの主題が入り交じり展開される。
第2楽章 ハ長調 2/4拍子 スケルツォ 一転、スケルツォは生き生きとした表情に変わる。二つのトリオを挿んで進み、コーダで曲冒頭のモットーが響き力強く終止する。
第3楽章 ハ短調 2/4拍子 三部形式 オーボエの奏でる美しい主題を軸にゆったりと表情豊かに奏される幻想曲風な楽章。
第4楽章 ハ長調 2/2拍子 展開部を持たないソナタ形式 曲は力強い第1主題を主軸に低音楽器で奏される楽句や冒頭楽章のモットーを交えつつ行進曲風なリズムで進み、後半、再現部はオーボエの奏する新たな主題を織り混ぜて展開され、ティンパニの連打とともに明るく全曲を結ぶ。

(無断転載を禁ずる)(C) 中 原 昭 哉(音楽評論家)

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