2004年9月17日 第95回定期演奏会曲目解説
R.シュトラウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品8
リヒャルト・シュトラウス(1864〜1949)と言えば、オペラと交響詩、それに歌曲の分野において重要で特徴ある作品を数多く残した、ドイツ後期ロマン派の最後に位置する作曲家であるが、協奏曲は意外と少なく、ブルレスケ、家庭交響曲のためのパレルゴン、パンアテネ行進曲(いずれもピアノと管弦楽のための作品)といった協奏的な作品を除くと5曲しかない。それらは作曲時期において、初期の1880年代前半と晩年の1940年代に大別されるが、そのうち最も早く書かれたのがこのヴァイオリン協奏曲で、1880年から1882年にかけて作曲された。つまりシュトラウスが16歳から18歳にかけてということであるが、父親がミュンヘン宮廷管弦楽団の優秀なホルン奏者だったこともあってだろう、早熟のシュトラウスは6歳から作曲を始めており、正規に作曲の勉強を始めたのも11歳からで、この協奏曲の作品番号からも分かるが、1880年までには弦楽四重奏曲(作品2)や交響曲ニ短調、13吹奏楽器のためのセレナード(作品7)などをすでに作曲していて、かなりの経験を積んでいた。
ところでシュトラウスが最初の協奏曲の独奏楽器にヴァイオリンを選んだのは何故だろうか。彼は作曲において、最初のうちに強く関心をもっていたのが、ヴァイオリンとホルンだったからである。ヴァイオリンは幼い時から学んでいた楽器だし、ホルンは言うまでもなく父親の楽器だった。実際、彼はこのヴァイオリン協奏曲のあと、1883年には最初のホルン協奏曲を作曲しているのである。こうした楽器への関心あるいは好みは、その後のシュトラウスの諸作品におけるこれらの楽器の活用と効果に如実に示されている。
さて、このヴァイオリン協奏曲だが、まさしく若々しいシュトラウスの意気込みが随所に感じられると同時に、ロマンティックな香りに溢れている佳品である。初期の作品に共通する点として、勉強してきた古典派の形式感やロマン派の情緒などに則っているのはこの曲も同じだが、すでにシュトラウス独自の個性が至る所に顔を出しているのも確かである。
第1楽章 アレグロ、ニ短調、4/4拍子、ソナタ形式。まさしく古典的な形式でまとめられた規模の大きい楽章だが、ロマン派的な気分も豊かな音楽になっている。
第2楽章 レント・マ・ノン・トロッポ、ト短調、3/8拍子、3部形式。ここで主調の平行調であるヘ長調をとらず、下属調をとっているところがユニーク。ヴァイオリンの歌う特性が良く生かされた美しく感傷的な音楽である。
第3楽章〈ロンド〉 プレスト、ニ長調、2/4拍子、ロンド形式。快活なジーグ風の主題による音楽で、これまで以上にヴァイオリンの演奏技巧を駆使した音楽。
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調 「巨人」
マーラー(1860〜1911)は世紀末に活躍を開始した。彼は作曲家として大成することを最も望んでいたが、当時のウィーンはブラームスに代表される新古典主義の傾向が幅をきかせており、希望していた作曲家への道が厳しかったため、まず指揮者としての活動が認められたのである。つまり世紀末に活躍が始められたのは指揮者としてであり、作曲家マーラーは一部を除いて一般には長らく認められることがなかった。指揮者マーラーはヨーロッパ各地の歌劇場でオペラ指揮者としての名声を確立し、ついにはウィーンの宮廷歌劇場総監督およびウィーン・フィルの指揮者になって、その活躍はニューヨークまで広がったが、指揮活動の多忙さゆえに作曲活動は大きな制限を受けていた。そのためかマーラーの完成された作品はきわめて少なく、しかもジャンルが片寄っている。つまり第1番から第9番までと「大地の歌」という全10曲の交響曲(未完の第10番を入れると11曲)と、7つの歌曲集および初期のカンタータ1曲という声楽作品がすべてである。
カッセル宮廷劇場の指揮者を務めていた1884年に着手され、ライプツィヒ市立歌劇場の指揮者を務めていた1888年に書き上げられた最初の交響曲第1番は、マーラー自身が完成の翌年11月にブダペスト・フィルを振って初演しているが、その時は2部分からなる交響詩として演奏された。そして1893年に改訂された時に「巨人」のタイトルが付けられ、2部5楽章それぞれには標題が付けられていた。さらに1896年には「花の章」と題されていた第2楽章が削除され、「巨人」というタイトルや各楽章の標題も消されて現行の4楽章制となったわけだが、その後も「巨人」というタイトルは使い続けられている。「巨人」はジャン・パウルの同名の小説によるが、内容的に密着しているわけではなく、この作品全体に流れるプロメテウス的な気分を表象したに過ぎないとされる。音楽的には、これより少し前に作られた歌曲集「さすらう若人の歌」と関連深く、その中の旋律が直接使われるなど、同じ若者を主人公とする続編のような趣を持っている。
第1楽章 緩やかに、重々しく(自然の音のように)〜常に非常に落ち着いて、ニ長調、4/4拍子、序奏の付いたソナタ形式。序奏から現れるカッコウの鳴き声を象徴した下降4度の音型は、全曲の核となるもの。
第2楽章 力強い動きをもって、しかし速すぎず、イ長調、3/4拍子、3部形式。スケルツォ楽章で、牧歌調のトリオを持つ。
第3楽章 荘厳に威厳をもって、しかし重々しくなく、ニ短調、4/4拍子、3部形式。葬送行進曲風の音楽。休みなく次の楽章へ。
第4楽章 嵐のように動きをもって、ヘ短調、2/2拍子、自由なソナタ形式。勇壮な第1主題と、対照的にロマンティックな第2主題によって激動の世界が展開されるが、様々な素材が実に巧みに処理されている。
(無断転載を禁ずる)(C)福 本 健