2007年5月11日(金)
第117回定期演奏会

■シェフからのメッセージ
 皆さんはマーラーの「子供の不思議な角笛」という歌曲集を聴いたことがありますか? これはそもそも19世紀初頭に詩人アルニムとブレンターノが、ドイツの伝承民謡約700編を集めて出版した詩集の題名なのですが、交響曲と並んで歌曲が創作のきな柱だったマーラーは、この詩集を題材に多くの歌曲を作りました。マーラーはこの詩集に非常に興味を持ち、かなり長期に渡って創作を続けました。初期の交響曲にはこの歌曲集と同じ曲が含まれている等その関係が非常に密接なため、通称「角笛交響曲」などと呼ばれることもあります。
 マーラーは原詩をそのまま歌詞に持ち込むだけでは飽き足らず、自分の感性によって歌詞を改変したり、場合によっては自分自身で書き足したりしています。それだけ伝えたかった内容がある訳ですが、実際の演奏にあたってはその分ドイツ語の歌詞の処理が重要になるということでもあります。今回は私自身がウィーン在住という縁もあって、現在ウィーン・フォルクスオーパーを中心に活躍されているエリーザベト・クルマンさんに共演をご快諾いただきました。彼女は2006年にウィーン国立歌劇場にデビューするなど、今後の活躍が大いに期待される若手メゾソプラノですが、ウィーン国立音楽大学で声楽を勉強する前に言語学と音楽学を修めた才媛でもあり、今回のソリストにはまさにうってつけだと思います。今度の共演はオーケストラにとっても私にとっても大変刺激的なものになることと、大変楽しみにしております。
 さてこの歌詞の内容はユーモアあり、皮肉あり、ドラマありと非常に多岐に渡るのですが、なかでも男女の遣り取りを扱ったものが多いことから、よく男性と女性の二人で演奏されます。しかし今回は全曲のうち約半数を、クルマンさんに女声のみで一人二役、場合によっては三役で歌い分けていただきます。白眉は『美しいトランペットが鳴り響くところ』。「外で戸を叩いているのはだれ?」「君が心から愛する人だよ。」歌詞だけからすると喜びの詩に聞こえますが、マーラーのつけた音楽からは哀しげな響きが…。歌手が彼女と彼、そしてナレーターの三役を受け持ってドラマが進行するのですが、最後にすべての謎が解ける瞬間にマーラーがかけた音楽の魔法の美しさといったら! 私は大学生の時にこの曲と歌詞に非常に深い感動を覚え、以来人にこの曲のあらすじを伝えようとするだけで内容と音楽が混然一体となって不覚にも涙してしまう程、個人的に最も大切な歌曲です。
大阪シンフォニカー交響楽団 正指揮者
寺岡 清高
エリーザベト・クルマン
メゾソプラノ
オーストリア出身のメゾソプラノ、クルマンはウィーン国立音楽大学を満場一致の首席で卒業後、すぐにウィーン・フォルクスオーパーに「魔笛」のパミーナ役でデビュー、大成功を収める。メゾソプラノに転向後もパリ・オペラ座の「ボッカチョ」、「オルフェオとエウリディーチェ」の主役、2005年にはウィ−ン・フォルクスオーパーで「カルメン」のタイトルロール、2006年にはウィーン国立歌劇場にデビュー、2007年も年明けの同歌劇場「こうもり」でオルロフスキー公爵で出演。ザルツブルク音楽祭出演やアーノンクール、ウェルザー・メストとの共演など、コンサートやリートの分野でも幅広く活躍している。

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