2008年01月25日(金)第122回定期演奏会
■シェフからのメッセージ
 ウィーンの4区に、ユディットというハンガリー出身で物凄いお国訛りのドイツ語をしゃべるおばちゃんの床屋がある。学生時代に近くの学生寮に住んでいたのが縁で 通い始めたが、まさかそれから15年も通い続けることになるとは思わなかった。当時はご主人が男性を、おばちゃんが女性を受け持っていたが、間もなくご主人が不慮の 事故で亡くなり、それからは彼女ひとりで店を切り盛りしている。このおばちゃんがなかなかの傑物で、こっちも学生だったからお金をケチって数ヶ月間隔で散髪に行くのだが、旦那さんが亡くなった後は行く度にどんどん料金が上がっていく。最初は少しずつだったので気のせいかな?と思っていたのだが、通貨がシリングからユーロに切り替わった頃からは、あからさまに値が上がった。最初の頃は何て安いんだろうと思っていたのが、いつの間にか日本より高くなってしまった。それでも通い続けるのは、彼女が憎めないキャラクターで、しかも話が面白いからだ。
 何度も若い女の子をアルバイトで雇うのだが、働きぶりだけでなく素行から果ては 教養程度まで突っ込みまくり、結局追い出してしまう。「若い娘の教育なんかするくらいなら一人で働いた方がマシだわ。本当にこの国の教育はなってない。」と毒づく。 夏休みは他の人達のようにどこかへ行くのかと聞くと、「休みなんて仕事ができない人が取るものよ。」客が希望するヘアスタイルを伝えると、「あなたのつむじはこう なってるからやめなさい。」かくいう私に対しても、最初の頃は「いつものでいいわ ね?」と言うから「はい。」と答えるのだが、翌日音大へ行くと必ず誰かに「髪型変えた?」と聞かれていた。
 このおばちゃんが私にとって生まれて初めて接したハンガリー人であった。その後何人かのハンガリー人と接する機会を得たが、とにかく逞しい人が多い。気骨があるというか。(単に頑固なのかもしれないが・・・。)そして語学が上手である。ハンガリー語自体がそもそも相当難しそうだけれど。バルトークの経歴を見ていて、やっぱりハンガリー人だなあと、思わず床屋のおばちゃんを連想してしまった。まだまだ大阪では知名度の低いハンガリーの作曲家達の作品にも、きっとそんなお国柄というか個性が潜んでいるわけで、この機会にぜひ親しんでいただければと、ほぼ同い年で実際に親交もあったコダーイとバルトークに、あまりハンガリー的でない分親しみやすいリストをプログラミングしてみた。おばちゃんへの土産話にもできるし。
 ちなみに最近はさすがに値段も髪形も落ち着いたし、こっちもひと月毎に通っております。

大阪シンフォニカー交響楽団正指揮者 寺岡清高



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