2008年06月20日(金)第126回定期演奏会
■シェフからのメッセージ
「ダイアナ妃」の登場によって、ヨーロッパの中でも最も保守的であるとされてきたイギリス王室の中にもたらされた改革は、「前例に従い、形を継承する」という安易な解釈では無く、新しいものを取り入れる寛容さと柔軟さを持った「生命力に満ちた価値」として歴史と伝統を継承するためには、それを守り司る立場の人間が持つべき「時代認識」が如何に大切であるかを示した意味で、人々の記憶に新しいと思います。
イギリスで生まれたサー・ウィリアム・ウォルトンが1936年のエドゥアルド候戴冠式のために作曲した「戴冠行進曲」は、そうした意味で、華麗絢爛な響きの中に「新しいものへの信頼と未知なる冒険に対する快諾のエネルギー」を感じさせる曲です。

この国が16世紀に生んだ天才シェークスピアの悲劇「マクベス」は、傲慢な野望を抱いた挙句、倫理感の喪失と自己過信のために内部崩壊していく夫婦のドラマとして、万人の知るところです。
22歳のリヒャルト・シュトラウスが「ドン・ファン」と「死と浄化」の間に作曲した交響詩「マクベス」は、ベートーヴェンの「第9」と同じニ短調で始まり、テーマもそのリズムも「第9」から着想を得ています。ドイツ音楽の歴史と伝統を継承し、その最盛期を築き上げるという使命を自覚した若き作曲家が選んだ題材が「マクベス」であることは、彼の自信と野心の大きさを裏付けると同時に、自らへの警鐘としての意味もあったのではないでしょうか。

革命後に祖国へ戻ったプロコフィエフを待っていたのは、時代認識の能力に欠け一つの政治的観念を盲信し続ける政治家と、人民を治めることと己の既得権を存続させることに執着する官僚たち。
時間と空間の織り成す「歴史」というドラマに翻弄されていく作曲家の心に響いたのは、苦しい日々の生活に追われながらも、地に足が着いた無名の民衆の中で息づく「大地ー祖国」への思い。

「今を生きること」は、過去を忘れることでも、責任転嫁をすることでもないはずです。
<歴史と伝統の中で自らを見つめ、自分の生き方に自ら責任を持つこと>- これが今回の曲目選択のキーワードです。
大阪シンフォニカー交響楽団 音楽監督・首席指揮者
児 玉   宏



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