2012年03月16日(金)第164回定期演奏会
■シェフからのメッセージ
児 玉 宏
1814年ドイツ中部の町シュバーバッハに生まれ、1889年、現在のポーランド領ヴァルムブルンで亡くなった「アドルフ・ヘンゼルト」は、シューマン・ショパン・リスト等と同じ時代を生きた“ドイツ・ロマン派”のピアノ奏者です。若年15歳でミュンヘンの演奏会に登場した“早熟な天才”。ワイマールで「フンメル」にピアノを、ウィーンでブルックナーの先生でもあった「ゼヒター」に作曲を学びます。
当初“技巧派演奏家”として名を成しますが、1838年ロシアのサンクト・ペテルブルクに移住。以後、自ら舞台に立つことは無く、その生涯を“教育者”として過ごすことになります。ペテルブルクだけでなく、モスクワ・キエフ・オデッサなどにも教育の拠点を築きますが、チャイコフスキーやラフマニノフに代表される“ロシアのピアノ協奏曲”は、〈ヘンゼルトが築いた“ピアノ奏法と教育法”無くしては生まれなかった〉といっても過言ではない、重要な音楽家です。
大阪交響楽団の「ディスカヴァリー・クラシック」は、交響曲を中心に「西洋音楽の多様性と同時性」を聴衆の皆様に提示して来ましたが、協奏曲の分野でも、誰もが知っている「名曲」の周りに、数多くの「価値ある無名の作品」が存在します。
〈無名の作品無くして名曲は生まれなかった〉という歴史的事実を 知ると、音楽文化の中に在る「娯楽」という側面と同時に、〈個人の経験や価値観が世代を超えて伝承され、次の天才を触発し、新しい作品と共に「新しい価値観」が生まれていく〉という“文化の輪廻”が見えてくるように思います。
「過去」を忘れると「現在」を見ることが出来ません。「現在」が見えなければ「未来」は予測出来ず、独自性のある「普遍的価値観」を形成することも、定着させることも出来ません。
音楽文化を、個々の作品が内に秘める“相互関係”を踏まえ、歴史の流れの中で再確認する作業が、必要なのではないでしょうか?
大阪交響楽団 音楽監督・首席指揮者
児玉 宏