2007年8月3日第21回いずみホール定期演奏会曲目解説
”近代音楽へのアプローチ” 星のとき 第一夜《生と死の狭間》1945年8月6日午前8時15分、広島に原子爆弾が投下されたその時、今日の指揮者大山平一郎の両親は、原子爆弾の第二目標であった小倉を通過していた。もしも広島の上空に雲があったならば、大山は今日ここにいなかったはずである。そして原子爆弾が投下された広島で、糀場富美子(こうじばとみこ)は生を受けた。出世作が『広島レクイエム』(1985年)というのは偶然ではない。糀場は昨年、第16回芥川作曲賞ならびに2006年度別宮賞を受賞、「新しい道」の旗手として誉れ高い。
『輪廻』The Transmigration of the Soul -そして、魂の新生のとき- は、糀場が、1995年サンタフェ室内楽音楽祭にコンポーザー・イン・レジデンスとして招待され、同音楽祭の委嘱により作曲、初演された。輪廻(りんね)とは仏教やヒンズー教の根幹となる教義で、人が転生し、また動物などにも生まれ変わることを言う言葉。この曲では、チベットの「死者の書」から、人間が死んで、また生まれ変わるまでの7週間(49日)の話をもとに、7つの楽章で表現している。
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大山は運命の糸に操られる様に、1970年アメリカに渡る。そこでサミュエル・バーバー(1910-1981)の多くの楽曲を演奏した。バーバー作曲の『弦楽のためのアダージョ』は、アメリカでは訃報のBGMの定番で、映画にもいろいろ使われている。『ノックスヴィル・1915年の夏』は、テネシー州の小都市ノックスヴィルでの子供の頃の思い出を語ったジェイムズ・エイジー(1909-1955)の散文詩『ある家族の死』(ピューリッツァー賞受賞)に、バーバーが音楽をつけたもの。散文詩は家族の崩壊と天国での新しい家族の再会が綴られている。アメリカのソプラノ歌手エレノア・スティーバー(1914-1990)の依頼で1947年に作曲され、1948年4月9日スティーバーのソプラノ、クーセヴィツキー指揮ボストン交響楽団により初演された。
※歌詞対訳はこちらモーリス・ラヴェル(1875-1937)の組曲『クープランの墓』は,『クープランをたたえて』というのが正しい訳だが、ラヴェルが第一次大戦で戦死した友人達の尊い命を賞賛するために作った曲であり、名誤訳ということも言える。フランソワ・クープラン(1668-1733)は、フランス・バロックの作曲家。オルガンやクラヴサンの名手としても知られていた。
ヨーロッパの音大の作曲科では、作曲技法を学ぶ際、過去の大作曲家のそれぞれの様式で作曲する課程がある。並の学生は単なる真似に留まるが、未来の大作曲家は、先輩大作曲家をオマージュ(尊敬)してそれを取り込み、なお自分の世界を展開する。
イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)のバレエ組曲『プルチネルラ』は、ロシアバレエ団の総支配人ディアギレフの依頼で作曲された。イタリア・バロックの作曲家ペルゴレージ(1710-1736)の音楽を素材とする、前述のオマージュ的な作品。『プルチネルラ』(プルチネッラ)は、イタリアの仮面喜劇「コメディア・デラルテ」に登場する、猫背のだまされやすい男のこと。鷲鼻の黒いマスクを被り、白い外套姿で現れることが多く、ピエロの起源ともいわれる。
今年のいずみホール定期演奏会は、ちょっと退屈な近代・現代音楽のコンサートではなく、作曲家を縦糸、演奏家を横糸として織りなす鮮烈なノンフィクション・ドラマである。
大阪シンフォニカー交響楽団ITプランナー 佐々木 修