2007年05月26日《第46回名曲コンサートに寄せて》
今日のプログラムを結びつけるヒントは舞台上にあるピアノです。今日は、このピアノをちょっとご紹介します。
世界のコンサートホールの90%以上に常備されているのが、スタインウェイのグランドピアノです。昨年は、世界の著名オーケストラの演奏会の、なんと98.5%がこの楽器によって演奏されたほどの、圧倒的な業界標準です。
スタインウェイは、Stein(独語:石)+way(英語:道)という二つの言葉を合成した言葉です。これはスタインウェイ&サンズ社を1853年に創業した、1797年ドイツ生まれのヘンリー・エンゲルハート・スタインウェイのドイツ名、スタインヴェク(Steinweg)の weg(独語:道)だけを英語に訳したものです。
ヘンリー・スタインウェイは1850年に一家で渡米しますが、それより前の1835年、愛弟子のグロトリアンと長男のテオドールと共に、ドイツのブラウンシュヴァイクで、グロトリアン・シュタインヴェク(GROTRIAN-STEINWEG)を創業、ピアノ製造を開始しました。長男のテオドールはドイツに留まり、スタインウェイの特許となる、数々の独創的なアイデアを出しました。
大陸で成功したスタインウェイは1880年、あたかも当初からそう計画していたかの様に、テオドールを長としてドイツのハンブルクに工場を建設して、ニューヨーク工場と合わせて二つの拠点から、同じスタインウェイであり、異なるスタインウェイが生産されるようになりました。
第二次大戦では、ハンブルク工場はユダヤ人経営の会社ということで没収され、さらに職人も戦線に送られ、工場も爆撃に遭い、他のヨーロッパのピアノ工場と同じく、壊滅的な打撃を受けました。しかしその不幸も、ニューヨーク工場のスタインウェイが、戦後唯一の高品質のピアノであったことから、世界標準となる大きなきっかけとなりました。また、破壊されたハンブルク工場も、ニューヨークからの支援で、ほどなく再建されました。
スタインウェイを弾くと、不思議な気持ちになります。ハンブルグ製の楽器なのに、ニューヨークの都会的な香りがし、また、ニューヨーク製なのに、ドイツの香りがします。車で言うと、アメ車ではなく、ベンツやBMWに近いイメージです。工業製品としてのスタインウェイは、先進的なアメリカの合理性、洗練さを有しながらも、作りそのものは、妥協のない、ドイツ・クラフトマンシップを継承しています。
さて、今日のプログラム、ハンブルク生まれのブラームスはピアノの名手で知られていました。ブラームスが活躍したウィーンは、スタインウェイのライバルである、ベーゼンドルファーの本拠地です。ラフマニノフは正にスタインウェイの申し子といってもいいピアニストで、その強靭なテクニックと音量を具現化したのがスタインウェイでした。そしてメンデルスゾーンとスタインウェイを結びつける絆は、ドイツ生まれのユダヤ人という底流です。
大阪シンフォニカー交響楽団ITプランナー 佐々木 修