2008年3月8日《第50回名曲コンサートに寄せて》
全ての音楽の中で、最も人の心を感動させる楽器は何でしょうか? という問いに、私は「人の声」と答えます。もちろん人間は楽器ではないという見方もありますが、私はあえてなお「人の声」を強く推します。人間の声帯は二枚の筋肉でできており、金管楽器の音源である「唇」と原理は同じです。また古来、全ての楽器奏者の目標は、「人の声のように」です。日本のオーケストラが、まだ創成期だったころ、ウィーンフィルの演奏に感激した日本人奏者が、「何故、楽器でそのように歌えるのですか?」と質問したところ、「何故って、私たちは昔からオケピットに入り、頭の上(舞台上)では、いつも一流の歌手が、私と同じ楽譜を歌っているでしょ。だから、その歌と同じ様に演奏しているだけなのです。」と答えたそうです。
その「人の声」の中で最も高く、かつ超絶技巧を駆使して聴衆を熱狂させるのが、今日のソリスト、サイ・イエングアンさんのコロラトゥーラ・ソプラノです。イエングアンさんは中国大連の出身。1989年東京で上演された日中合作のオペラ『魔笛』に夜の女王役で出演、絶賛を浴び、以後この役で世界中の劇場に出演しています。「より高く、より速く、より強く、より美しく」オリンピックのスローガンは、音楽にも通じます。北京オリンピックは、いよいよ今年の8月ですね。
交響組曲『シェエラザード』は、ロシアの作曲家ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844-1908)が1888年に作曲した、「千夜一夜物語」を題材にした交響曲です。「千夜一夜物語」は「アラビアン・ナイト」のこと。妻の不貞を見て女性不信となったシャリアール王が、一夜を過ごした女性を毎日殺していたのを止めさせるために、大臣の娘シェエラザードが自ら王の元に嫁ぎ、千夜に渡って毎夜王にお話をしては夢中にさせ、終には殺すのを止めさせたという物語です。美しいシェエラザードの主題を演奏するのは、ソロヴァイオリンですが、私にはソロを支えるハープこそがシェエラザード姫の姿で、その心を表現しているのがソロヴァイオリンにも思えます。そして今日はどうぞ、みなさんがシャリアール王になったつもりでお聞き下さい。それぞれの楽章が終わったとき、もしもみなさんが、次の楽章をもっと聞きたいと思ったら、シェエラザード姫の命は助かるはずです。
足かけ10年、今日で記念の第50回目となります名曲コンサートですが、1001回目の「千夜一夜」記念名曲コンサートは2198年に予定しています。
大阪シンフォニカー交響楽団ITプランナー 佐々木 修