2009年04月25日《第56回名曲コンサートに寄せて》
近年クラシック音楽が、もっともお茶の間に入り込んでいるのはフィギュアスケートではないでしょうか。トリノ五輪で金メダルを獲得した荒川静香さんのバックには、プッチーニ作曲のトゥーランドットが流れていました。また、浅田真央ちゃんの今年の曲は、ちょっとマイナーな、でもすごく新鮮なハチャトリアン作曲の仮面舞踏会です。そして、この曲を持ってきたのは、ロシア人コーチのタチアナ・タラソワさんです。そう、いつも高そうな毛皮を着ている、ちょっとメタボ気味のあの人です。でもですね、私は真央ちゃんのすばらしい演技を見るたびに、もちろん彼女自身の才能や努力に感心する一方、ロシア芸術の奥深さに敬服するのです。フィギュアスケート一つとっても、ロシアの音楽、バレエ、映画等、あらゆる芸術の蓄積の上にあるのだということを痛感します。
さて、長い前置きでしたが、今日最初のプログラム、シチェドリン(1932- )編曲によるバレエ音楽「カルメン」組曲は、正にこのロシア芸術の多様性と歴史の綾(あや)から生まれた作品です。「カルメン」は、皆さんご存知のビゼーのオペラです。1967年ロシアで、この「カルメン」をテーマにしたバレエの上演が決まりました。しかし、肝心の「カルメン」の編曲を頼まれた大作曲家のショスタコーヴィチやハチャトリアンは、元の音楽があまりにも偉大なので及腰になり、辞退してしまいました。しょうがなく、このバレエ公演のプリマドンナ、マイヤ・プリセツカヤの夫であるシチェドリンが編曲をすることになりました。曲は弦楽器と4群の打楽器だけという、意表をついた編成で、全13曲の中には「カルメン」の他、「アルルの女」や「美しきパースの娘」の音楽も含まれています。
カルメンの舞台はスペインです。そして、今日のコンサートのテーマも勿論スペインです。フランスの作曲家エドゥアール・ラロ(1823-1892)は、ヴァイオリンの名手サラサーテのために「スペイン交響曲」を作曲しました。題名は「交響曲」となっていますが、実際はヴァイオリンの独奏を最大限活かした交響的な協奏曲です。この曲の初演は1875年2月7日ですが、このわずか1ヶ月後の3月3日には、同じパリで「カルメン」が初演されています。つまり、フランスに音楽のスペイン風が吹き荒れた年だったのです。
本当の偶然ですが、この「カルメン」の初演の4日後、つまり1875年3月7日、フランスの作曲家モーリス・ラヴェル(1875-1937)は、フランスとスペインにまたがるバスク地方で、スイス人の父と、バスク人の母の間に生まれました。つまり、生まれながらにスペインの血と運命を担っていたといえます。「ボレロ」は、水戸黄門のような曲です。最初から最後まで、ずっとずっと、同じリズムと同じメロディーがくり返され、もうこれ以上大きくなれないところで「印籠」が示され、皆がひれ伏します。
佐々木 修