■大阪シンフォニカー交響楽団-楽曲解説DB
ツェムリンスキー(1871-1942)
交響曲 第2番 変ロ長調
Zemlinsky: Symphony No.2 in B flat major
演奏時間:40分
2Fl,2Ob,2Cl,2Fg/4Hr,2Tp,3Tb,Tub/Tim/Str
19世紀も半ばになると、ベートーヴェンは至高の存在として崇められてゆく。とりわけ彼が後半生を送ったウィーンは、そうした動きの中心地となった。一例が、ヨハネス・ブラームスを審査員に迎えた「ベートーヴェン作曲賞」である。後にブラームス本人の提案で「ウィーン楽友協会作曲賞」として名称・組織変更が行われ、奇しくも彼が世を去った1897年、第1回目の入賞作品が選定された。賞を分け合ったのは、アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキーの交響曲第2番変ロ長調とロベルト・グーンドの交響曲ト短調。ともに作曲者自らの指揮により、1899年にウィーンで初演されている。
 ウィーンのユダヤ人家庭に生まれたツェムリンスキーは、13歳でウィーン楽友協会音楽院に入学。ピアノをアントン・ドール、和声をロベルト・フックス、作曲をその弟のヨハン・ネポムク・フックスといった、ブラームスのシンパに師事する。また同音楽院と密接な関係にあった老ブラームスの目にとまり、出版社への紹介をはじめとする支援を得た。だが、一方でツェムリンスキーは、ブラームス派と対立するワーグナー=ブルックナー派の影響も受けていた。たとえばワーグナーの歌劇『ローエングリン』は、少年時代の彼に強烈な印象を残している。また当時のウィーンでは、アントン・ブルックナーの一連の交響曲や、リヒャルト・シュトラウスの交響詩『ドン・ファン』『死と変容』に代表される「新時代の音楽」が続々と上演されていた。
 じっさい交響曲第2番を作曲した頃のツェムリンスキーは、新時代の音楽をも含む多彩なレパートリーを取り上げるべく「ポリヒュムニア」なるアマチュア・オーケストラの指揮者となり、そこでアルノルト・シェーンベルクと知り合った。さらには作曲の弟子としてアルマ・シントラーを教え深い仲になるものの、彼女がグスタフ・マーラーと電撃結婚を果した後でさえ、恋敵であるはずの当のマーラーから絶大な支援を受け続けた。
 マーラーもシェーンベルクも音楽史を大きく塗り替えた人物だったことを顧みるに、ツェムリンスキーの革新的な側面がよく分かる。たしかに交響曲にのみ着目しても、その後の彼は『交響詩〈人魚姫〉』や『叙情交響曲』といった具合に、古典的な枠組みを大きく踏み越え、標題音楽や声楽と管弦楽のための作品といった新たな交響曲のあり方を模索していった。そうした意味でも『交響曲第2番』は、ツェムリンスキーの中にあった伝統への敬意と革新への気概が、奇跡的なバランスで共存しあっている作品といえよう。
 ちなみにベートーヴェン賞の選考にあたっては公平性を期すという理由から、応募者は自分の名前ではなく、自らのモットーを記すという取り決めがあった。ツェムリンスキーが掲げたのは、リヒャルト・ワーグナーの歌劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』からの一節。曰く、「賞を認定し与える立場にいる者は、結局自分の気に入った人間しか求めないのだ」。 ブラームス派と目されていたツェムリンスキーにして、何たる皮肉だろうか。

第1楽章:序奏付きのソナタ形式
〔〈序奏〉ソステヌート 3/4拍子 変ロ長調〜〈主部〉アレグロ・速く燃えて力強く 4/4拍子 変ロ長調〕
 冒頭に出現する「ファ→シ♭」という動機、またそれに続くファンファーレ風のメロディに注目。短い動機を刻々と変化させて曲全体を構成してゆく手法は、シューベルトやブルックナー、ブラームスに聴かれるウィーンの交響曲の伝統に拠っている。主部に入ると、三連符の和音をバックに、冒頭の動機に基づく付点音符付きの第1主題が登場する。ワーグナーの『ローエングリン』やR・シュトラウスの『ドン・ファン』を彷彿させる曲想だ。第2主題は、ツェムリンスキーが1895年に作曲した歌曲『愛の悩み』から採られ、軽やかな歌謡性に満ちている。やがて「タン・タン・タタタン」というリズムが低音部に現れ、これにオーケストラ全体が和してゆく。ワーグナーに惹かれつつも、ブラームスを尊敬していたドヴォルザークの作品を彷彿させる点が興味深い。
第2楽章:序奏とコーダ付きのスケルツォ
〔〈主部〉速すぎずに(スケルツァンド)3/4拍子 ト短調〜〈トリオ〉落ち着いて(ゆっくりと) 3/4拍子ト長調〕
「タン・(ン)タタン/(ン)タタタタタ」というリズムをベースに、師のR.フックス、あるいはやはり彼に師事していたマーラーのスケルツォを想起させる楽章。ティンパニの暗い響きに始まり、テーマがいっこうに出現せず、ニ短調かト短調かも判然としない…といった構成が、不気味さを醸し出す。トリオも主部のメロディから影響を受けており、一見穏やかだがどこか落ち着かない。束の間の安らぎといった態で、すぐさま主部のリズムが侵入してくる。
第3楽章:三部形式のアダージョ 3/4拍子 変ホ長調
 序奏は管楽器によるコラール風のもの。ドヴォルザークの交響曲『新世界より』第2楽章のそれを彷彿させる独特の和音構成には、ブラームスの交響曲第3番の第2楽章中間部、あるいはワーグナーの楽劇『パルジファル』の前奏曲からの影響がうかがえる。続いて変ホ長調のメロディが情感豊かに奏でられるものの、突如ハ短調の中間部が出現し、弦楽器によるトレモロと九連符による下降動機が不安げに響く。やがて変ホ長調の曲想が戻り、九連符の下降動機もフルートによる牧歌的な装いへ昇華されてゆく。
第4楽章:パッサカリア モデラート 2/4拍子 変ロ短調
 パッサカリア(低音のメロディ反復に基づき、それ以外の声部が様々な形で現れる一種の変奏曲)といえば、ブラームスの交響曲第4番第4楽章があまりにも有名。ブラームス信奉者だったツェムリンスキーがそれに倣ったのも、不思議ではない。またこのような形式を正確に踏まえてこそ、作曲賞の選考にあたって高い評価を受けることができた。オーケストラの総奏による短い導入部のあと、低弦のピツィカートで主題が示され、30の変奏が続く。長調に転じたりフーガが出現したりと山あり谷ありの変化が施され、テンポも激しく揺れつつ悲劇的な高まりを見せてゆくのだが、いっとう最後はブラームスとまったく異なる展開が待っている。調性が短調から長調へと転じ、第1楽章の冒頭に出現したファンファーレが輝かしく出現したまま全曲が閉じられるという驚き!
(C) 小宮正安(ヨーロッパ文化史研究家 横浜国立大学准教授)

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