■ピアノと管楽器のための協奏曲
Stravinsky: Concerto for Piano and Wind Instruments
上演時間:(7,7,5) 19分
楽器編成:2Fl,Pic,2Ob,EH,2Cl,2Fg(K-Fg)/4Hr,4Tp,3T,Tub/Tim,BD
「春の祭典」に代表される原始主義で世界に衝撃を与えたストラヴィンスキーは、興行師セルゲイ・ディアギレフ(1872〜1929)に依頼されてぺルゴレージらの作品を素材としたバレエ組曲「プルチネルラ」(1919)を手掛けて以降、1950年代にかけて、ロマンティシズムを排した18世紀音楽に範を求める新古典主義に傾倒。彼には当作品「ピアノと管楽器のための協奏曲」(1923〜24)と、「ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ」(1928〜29)、ピアノ協奏曲にカテゴライズされる作品が2曲あるが、いずれもこの時期に書かれている。
「ペトルーシュカ」の編曲などを通じて、再びピアノという楽器に可能性を見出したストラヴィンスキーは、指揮者のセルゲイ・クーセヴィツキー(1874〜1951)のパリでの演奏会に向けてピアノ協奏曲を書こうと決意し、南フランスのビアリッツでこの曲を完成。クーセヴィツキー夫人ナタリーに献呈され、作曲者自身のピアノにより初演された。全体は急−緩−急の古典的な構成に倣うが、オーケストラはコントラバス以外の弦楽器を排した特異な編成。「管楽器のシンフォニー」(1920)や「管楽八重奏曲」(1922〜23)などで見せた作曲者の管楽器への執着がここにも表れている。作風的には、この時期のストラヴィンスキーのエッセンスが詰まった佳品だが、残念ながら演奏機会は多くない。イシイ=エトウがこの曲を取り上げるにあたって、「まず一番に名前が浮かんだ」という岡田博美との瑞々しいコンビによる今回のステージは、この曲を“体験”する貴重な機会ともなろう。
第1楽章 後に作曲者本人が「18世紀の古典主義の上に、新たな音楽を構築しようと試みた」と語っている通り、冒頭で管楽器が奏するラルゴは、バロックの組曲のフランス風序曲の始まりを想起させる付点のリズムが印象的。続く主部アレグロは16分音符を基調としたピアノによるトッカータ風の主題が、フルートが提示するもうひとつの主題を巻き込みながら進行する。最初の主題は変形を繰り返し、ふたつ目の主題が音高を変えながら時折り顔をのぞかせる。ピアノとオーケストラは、ソロと伴奏という形で対峙するのではなく、時にリズムを補完し合い、時にほんの部分的なユニゾンで音色を彩るなどコラボレートを通じて、音の楼閣を構築してゆく。最後はラルゴに回帰し、重々しく終わる。
第2楽章 ピアノ・ソロによって提示されるラルゴの主題は、一聴するとロマンティックな性格を帯びているように誤解してしまうが、このような主題に付加しがちなオブリガートなど感情的な表現は、実は注意深く避けられている。それはまるで、一切の人間的な感情を寄せ付けずに、屹然とした美しさを見せる大自然を思わせる。曲の構成も、2箇所のカデンツァを軸に、シンメトリーに展開してゆき、聴く者に一種の機能美のようなものを感じさせる。
第3楽章 先の楽章からアタッカで演奏される終楽章は、第1楽章に共通したイメージを持つが、ピアノ・ソロの打楽器的な性格はよりいっそう強調されている。ソロとオーケストラが対話する即興的な展開から、やがてがっしりとしたフーガ風のテーマへと移る。そして、第1楽章のラルゴの主題へと再び回帰。最後はテンポの早い、短いエピソードが添えられ、ハ長調の主和音で全曲を締め括る。
(C) 寺西 肇(音楽ジャーナリスト)