■大阪シンフォニカー交響楽団-楽曲解説DB
ショスタコーヴィチ:室内交響曲 作品110a
Dmitry Shostakovich: Chamber Symphony, Op.110a
編曲:バルシャイ(Rudolf Barshai)
演奏時間:20'
楽器編成:Str
旧ソ連邦を代表する作曲家であるドミートリイ・ショスタコーヴィッチ(1906-1975)の『室内交響曲』は、彼の弦楽四重奏曲第8番ハ短調 作品110を、同じロシア出身の指揮者ルドルフ・バルシャイ(1924- )が、作曲者の承認を得て、弦楽オーケストラ用に編曲したものである。曲は作曲者により「ファシズムと戦争の犠牲者の想い出に」捧げられている。冒頭のチェロのテーマは、ショスタコーヴィッチのイニシャル(Dmitri Schostakovich)から、D=ニ音,S=Es=変ホ音,C=ハ音,H=ロ音,で構成され、全曲の中心主題として扱われている。また全曲にわたりそれまでショスタコーヴィッチが作曲した交響曲や室内楽、オペラなどの主題が使用されている。さらに作曲者自身の手紙により、ワーグナーの『ジークフリートの葬送行進曲』や、チャイコフスキーの『悲愴交響曲』などの断片も使用されているとされているが、一聴ではわからない。
折からこの曲を作曲した1960年は、ショスタコーヴィッチにとって大きな転機となる年であった。同年6月には、不本意ながらソビエト共産党に入党を決意、翌年には入党と引き替えにレニングラード音楽院大学院での教育活動に復帰し、以後ソヴィエト社会主義リアリズムの中心的作曲家として活躍する。しかし、ショスタコーヴィッチの心が真に社会主義リアリズムであったわけではなく、死後明らかになった回想録や研究から、ショスタコーヴィッチが表面上は当局の指導に迎合しつつ、巧みに社会主義に対する反発、イロニーを織り込んで作曲していたことがわかっている。いずれにせよ、自由に作曲ができないストレスは相当のものであったと想像でき、ショスタコーヴィッチの『弦楽四重奏曲第8番』=『室内交響曲』は、悪魔に魂を売り渡す直前の、自らの良心に対する葬送行進曲とも言える作品である。全曲は切れ目なく演奏される。
第1楽章:ラルゴ、ハ短調、4/4。自作の交響曲第1番からとられた、前述の主題に基づく叙情的なフーガ。
第2楽章:アレグロ・モルト、嬰ト短調、2/2。暴力的な、激しい主題が第一ヴァイオリンにより奏され、他の楽器に引き継がれる。頂点に達したところで、ピアノ三重奏曲第2番ホ短調のユダヤの主題が現れ、悲痛に歌われる。
第3楽章:アレグレット、ト短調、2/2-3/4。一瞬ワルツが現れるが、ワルツの楽しさはみじんもない、息の詰まるような反復のあと、突然、チェロ協奏曲第1番の主題が現れる。
第4楽章:ラルゴ、嬰ハ短調、3/4。長く引き延ばされた音が、重苦しい空気を表している。楽章中に頻繁に現れる3つの激しい音こそ、人々の心臓を一瞬にして凍らせる「KGBが来た!」というノックである。ショスタコーヴィッチ自作のチェロ協奏曲、交響曲第10番、第11番、あるいは、オペラ『カテリーナ・イズマイロヴァ』のメロディーが現れては、3つの激しい音により打ち消される。
第5楽章:ラルゴ、ハ短調、4/4。第1楽章が再現され、重苦しい雰囲気の中で全曲が終わる。
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