■大阪シンフォニカー交響楽団-楽曲解説DB
ショスタコーヴィチ:交響曲第1番ヘ短調作品10
Dmitry Shostakovich: Symphony No.1 in F minor Op.10
演奏時間:8',4',8',8',(28')
楽器編成:3Fl(1stFl,2ndFl/2ndPic,3rdFl/1stPic),2Ob,2Cl,2Fg,4Hr,2Tp,contralto-Tp(in F),3Tb,Tub,Tim,4perc(SD,Trgl,TT,Glock,Cym,BD),Pf,Str

 〜 ところで、いつの間にかベルリンの壁崩壊から17年、ソビエト連邦の消滅から15年を迎えようとしています。ということは、今の20歳より下の人たちの大半は「東ドイツ」とか「ソビエト」とかを言葉の上だけでしか聞いたことがない、あるいは無関心だと、それらの言葉さえ全く知らないということになります。
 けれども、ショスタコーヴィチ(1906-1975)の音楽について語るときソビエト社会主義政権との関係を切り離すことはできません。少年期に1917年の革命を迎えた彼は、作曲家として活動を開始して以後、芸術家の創作活動は社会主義の精神に拠って大衆を改造する思想的任務と結びついていなければならないという「社会主義リアリズム」の国家的要請(強制)の立場から幾度も批判にさらされました(ちなみに、社会主義国でなくともそれはありえ、戦時中の日本では芸術家の自発的な行動という体裁をとりながら国威発揚以外の表現をとれない状況が生み出されたことを忘れてはいけません)。芸術創作は個人の内面の自由があってこそ成り立つものですから、芸術家にとってこれはほとんど圧殺とも言うべきものなのですが、ショスタコーヴィチはそのつど権力とのさまざまな距離をとり、 新たな作品を書いて、亡命することなくソビエト国内で創作活動を続けたのです。
 でも、そこまで言うのは急ぎ過ぎというもの。《交響曲第1番 ヘ短調 op.10》が生み出された時点ではまだ彼は直接には政治に翻弄されていないのですから。というのは、この作品は1925年完成の、ショスタコーヴィチがレニングラード音楽院卒業制作として書いた曲で、いわば習作といえるものなのです。
ところが、これが、のちの彼の音楽スタイルを聞き取ることのできる大傑作。作曲者自身はこの作品を「グロテスク交響曲と呼ぶにふさわしい」と言っていて、表現の上で意識的に誇張と対比を繰り出しますが、その機知に溢れた展開は私たちに新鮮な驚きを与えるとともに、ある種の音楽上の決意とも呼べる緊迫感に圧倒されます。加えて、ここに聴かれるのは伝統的な語法を吸収した上でそれを踏まえつつ時代の先端に立とうと言う気概とその優れた結実。
  この曲、こうした清新さと高度な出来映えゆえに、またたくまに欧米各国で演奏されるようになったのですが、それが、この優れた才能を社会主義の成果として宣伝利用しようとする政権との軋轢を以後生じさせることにもなったのですから、歴史とは皮肉なものです。
(無断転載を禁ずる)(C) 網干 毅

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