■大阪シンフォニカー交響楽団-楽曲解説DB
パーセル/ミトロプーロス編曲:「ディドとエネアス」より
Henry Purcell: Dido and Aeneas
英国の大作曲家ヘンリー・パーセルのオペラ「ディドとエネアス」は1689年、全寮制の女学校で初演された。日本の元禄2年。赤穂浪士の討ち入りより13年も前のことだ。もっとも日本でも歌舞伎がこの時期にほぼ完成していたから、もし西洋と自由に往来できて、幕末の開国早々このオペラの翻訳が上演されていたら、江戸の人はかえって「なんだ、『椿説弓張月』の翻案じゃねえか」と思ったかも知れない。祖国滅亡による貴種の英雄の放浪と他の地での再起に悲恋がからまるストーリーは、源為朝を扱った曲亭馬琴の小説『椿説弓張月』とたしかによく似ている。鎖国体制の中では、両者の交流はあり得なかった。
エネアスはトロイの王子で、トロイの滅亡後、イタリアに向かって船出するが、嵐によってカルタゴに漂着し、カルタゴの王女ディドと恋仲になる。しかしエネアスにはローマを建国する使命がある。ここのところは、神と魔術師が介在してややこしいが、ディドは恋をあきらめ、エネアスを旅立たせるため、死ななければならない。 原作は古代ローマ最高の詩人ヴェルギリウスがローマ建国を描いた民族叙事詩「アエネーイス」で、その中のディドとエネアスの悲恋の部分を英人ネーハム・テイトが脚本にし、パーセルが作曲した。弦楽合奏と声部の見事な造形力は、現在でも立派に鑑賞にたえる。
ミトロプーロスの編曲は、哀切さと、劇的な盛り上がりを暗示する序曲に、第3幕のディドの辞世の悲痛なアリアをつなげて、この悲劇を最短距離で表現しようとする。古代叙事詩の凝縮された極致をここに見るわけである。
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