■大阪シンフォニカー交響楽団-楽曲解説DB
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」
Bedrich Smetana: "Ma vlast" (My Fatherland) Symphonic Poems
“チェコ国民音楽の父”と呼ばれるスメタナ(1824〜1884)の代表作である連作交響詩「わが祖国」は、彼の熱烈な愛国精神が最もよく反映された作品で、1874年に第1曲が書かれたのち、5年の間に残りの5曲が作曲(第2曲は1874年、第3曲と第4曲は1875年、第5曲は1878年、第6曲は1879年)され、全6曲は彼が亡くなる2年前の1882年11月5日に、プラハにおいてアドルフ・チェフの指揮で初演された。
演奏時間:全曲72'
§第1曲「ヴィシェフラド(高い城)」Vysehard
演奏時間:12'
楽器編成:2Fl,1Pic,2Ob,2Cl,2Fg,4Hr,2Tp,3Tb,Tub,Tim,2perc(Cym,Trgl),2Hp,Str
「ヴィシェフラド」はわが国では「高い城」と訳されるが、実は固有名詞で、プラハの南、モルダウ川のほとりにそそり立つ岩の上にある城の名である。言い伝えによれば、そこは古代のチェコの王たちの居城だったらしい。スメタナはこの曲で、この古城にまつわる歴史と栄光を描いたのである。彼は《そこはかつてチェコの王たちの居城であった。伝説の歌人ルミールは、その栄華をきわめた王朝の象徴で、祝典の際には竪琴を鳴らしながら歌う吟遊詩人であった。しかしやがて戦闘が起こり、王朝は没落して、城も廃墟と化してしまう。だが今なお、その廃墟にルミールの竪琴は響いている》というプログラムを書いている。曲は、まずハープがルミールの竪琴を表す如くに奏するところから始まるが、これはヴィシェフラドの主題であり、「わが祖国」全体のライトモティーフとも言うべき重要な旋律。そしてこの主題が自由に変奏され、闘いのシーンを交えて栄枯盛衰が描かれる。
§第2曲「モルダウ」Vltava
演奏時間:12'
楽器編成:2Fl,1Pic,2Ob,2Cl,2Fg,4Hr,2Tp,3Tb,Tub,Tim,3perc(Cym,Trgl,BD),Hp,Str
全6曲中で最もポピュラーな人気を得ている曲。「モルダウ」(原題はチェコ語表記の「ヴルタヴァ」)は、プラハの街を貫通する大河の名前で、スメタナはチェコの西部を水源とするモルダウ河の、水源から首都プラハに流れ込むまでの河に沿った景観を《河は2つの水源から発し、岩に当たって快い音をたてながら次第にその幅を増してゆく。両岸には狩りの角笛や農民たちの踊る舞曲の音楽などがこだまする。夜になると青白い月の光に照らされながら、水の妖精たちが踊るのが見える。やがて流れは聖ヨハネの急流にさしかかり、波はしぶきをあげて飛び散る。ここから河は流れも緩やかになってプラハ市に流れ込み、やがて古城ヴィシェフラドを仰ぎ見ながら滔々と流れて行く》という標題のもとに描写している。
§第3曲「シャールカ」Sa'rka
演奏時間:9'
楽器編成:2Fl,1Pic,2Ob,2Cl,2Fg,4Hr,2Tp,3Tb,Tub,Tim,2perc(Cym,Trgl),Str
「シャールカ」は、プラハの北東にある地区の名だが、スメタナはここでその地名と同じ名の女性にまつわる伝説を扱っている。その内容は《ボヘミアの女性軍を率いる英雄シャールカは、かつて恋人に裏切られたことで全男性に復讐を誓っていた。ツティラートの率いる騎士たちとの戦いに決着がつかないことから、シャールカは一計を案じ、ある日自らの身体を森の中の木に縛り付けた。そこへ通りかかったツティラートたちが彼女を助け、シャールカはお礼にと用意した酒を彼らに振る舞う。やがて男たちは酔い潰れ、眠ってしまうので、シャールカは角笛で合図して女性軍を呼び、彼らを殺してしまう》というもの。
§第4曲「ボヘミアの森と草原より」Z cesk'ch luhuv a ha'juv
演奏時間:12'
楽器編成:2Fl,1Pic,2Ob,2Cl,2Fg,4Hr,2Tp,3Tb,Tub,Tim,2perc(Cym,Trgl),2Hp,Str
ここでは「モルダウ」と同様に伝説から離れ、祖国の美しい風景が描かれる。ただし他の5曲と違って、この曲には文学的な題材はなく、ひたすら田園的な情緒の音楽で美しい祖国の風土を描き出している。スメタナはこの曲の内容を《ボヘミアの風景を眺めた時に受ける情感が描かれている。至る所から歌が聞こえてくる。それは陽気であったり、淋しげであったりするが、牧場や森から響いてくる。森の地域はホルン独奏で示され、明るい肥沃な低地は、喜ばしい主題で描かれている。誰もが各自の幻想に応じて絵を描くことができる。詩人はたとえ独自の仕事に従わねばならぬとはいうものの、自分の前に開かれた道をもっている》と述べている。
§第5曲「ターボル」Ta'bor
演奏時間:13'
楽器編成:2Fl,1Pic,2Ob,2Cl,2Fg,4Hr,2Tp,3Tb,Tub,Tim,1perc(Cym),2Hp,Str
「ターボル」は、プラハから約100キロ離れた南ボヘミアの古い町の名前である。そしてこの曲は、その町から起こった宗教的な戦いに取材している。この戦いの起こりはボヘミアの宗教改革者ヤン・フス(1370?〜1415)の活動に由来する。フスは、イギリスのジョン・ウィクリフの宗教改革の影響を受け、国民主義的な思想の下に、カトリックの堕落した教皇や教会を激しく攻撃したために、教会を破門され、1414年にはコンスタンツの宗教会議でも反カトリックの主張を貫き通したことで捕らえられ、翌年には火刑に処せられる。しかしフスの死後、彼の教理を信奉する多くの人々はフス教徒となって結束し、フス主義反対を唱える国王とカトリック教会に対して内乱を起こした。これがボヘミア戦争あるいはフス戦争と呼ばれるもので、足かけ18年にも及ぶ長い戦いだったが、結果としてはフス運動は失敗に終わる。だがこの戦いを契機にチェコ人は一段と国家および民族としての連帯を深めることになったと言われる。この曲はその戦いを《フス団の戦争の賛美歌「汝らは神の戦士たれ」がまずターボルの町で歌われ、キリスト教徒全体にそれがこだまする。そして、この町に信仰の自由と安全を守るための要塞が築かれた。賛美歌は、自分の信念のために戦場へ赴くターボル人たちの勇気を燃え立たせ、自分たちの運動の神聖さについての断固とした確信を与えた。戦闘の最中にそれが聞こえてきて、神の真理を否認するよりはむしろ滅亡したほうが良いというターボル人たちの激しい主張で、敵側は恐慌に陥った》という内容で描いているのだが、全体は賛美歌「汝らは神の戦士たれ」を基本主題とした自由な幻想曲風コラール変奏曲のような形で書かれている。
§第6曲「ブラニーク」Blanik
演奏時間:14'
楽器編成:2Fl,1Pic,2Ob,2Cl,2Fg,4Hr,2Tp,3Tb,Tub,Tim,2perc(Cym,Trgl),2Hp,Str
「ブラニーク」は、ターボル近くの山の名前である。この曲は第5曲「ターボル」と対になったもので、やはりフス団の賛美歌が用いられており、スメタナ自身もこの2曲は一緒に演奏されることを望んでいたという。曲は《ブラニークのふもとでフス団の戦士たちが、ボヘミアを悲劇的な圧政から救おうとして、招集を待機しながら眠っていた。やがてフス団の賛美歌「汝らは神の戦士たれ」が聞こえてくる。その後、羊飼いの牧歌的な間奏を置いて敵の襲来があり、新しい賛美歌「汝らの側の神とともに終末において勝利を収めん」が行進曲のリズムで現れる。フス団の戦士たちは勇んで出陣し、祖国に大勝利をもたらした》という標題で描かれているが、最後には第1曲「ヴィシェフラド」の主題も登場する。それはヴィシェフラドが数々の歴史を眺めながら、現在も聳えて続けていること、つまり栄光あるチェコの歴史と現代との結合の象徴を表すものだろう。
(無断転載を禁ずる) (C)(音楽評論家)福本 健