「オーケストラ運営よもやま話し」

大阪交響楽団 楽団長 敷島鐵雄

※ 2004年6月28日 大阪府高等学校商業教育協会 総会にて講演


 皆さん、こんにちは。本日は経済とオーケストラについてというようなお話を約1時間させていただきます。リラックスしていただき、「トリビアの泉」の「へぇ」というぐらいの程度で、お聞きいただけましたらと思っております。
 皆様方で、日本にプロのオーケストラが何団体あるか、ぱっとお答えになられる方はいらっしゃいますか。プロ野球は最近いろいろ騒がしく1リーグ制にするとか合併するとか言っておりますが、我々普通に思えばセ・パ両リーグ合わせて12球団です。Jリーグが何球団かございます。大相撲は1つですよね。そうやって考えた場合に、プロのオーケストラが日本に幾つあるか。これを恐らく音大の学生に質問しても、きちんとした答えはなかなか返ってこないと思うのです。
と言いますのが、それだけオーケストラというものが非常に身近なところにありつつも身近なところにないということだからです。日本オーケストラ連盟総覧という本があるのですけれども、ここには日本オーケストラ連盟に加盟している団体とそこに入っている指揮者陣、それから演奏家、バイオリンからチューバぐらいまでのメンバーが載っています。いうなれば、プロ野球選手名鑑ってよく子供のときに持っていましたけど、ああいうのと同じなのです。
この文化庁が認可しております社団法人日本オーケストラ連盟に加盟するにはハードルがございます。例えば楽団員数が何名以上でないといけない、それから楽団員に対して月々お給料をこのぐらい払わなきゃいけない、演奏回数はこのぐらいやらなきゃいけない、そういう幾つかのハードルを越えまして、やっと日本オーケストラ連盟というところに入った団体が現在23団体ございます。
いろんな数え方がありますが、日本のプロのオーケストラは幾つっていわれたときに、日本オーケストラ連盟ということを一つのくくりとするのであれば、23でございます。これがきょうの一つの「へぇ」かなと思います。
一番北にある楽団が札幌交響楽団、東北には仙台フィルハーモニーと山形交響楽団、そして東京には現在8つですね、1つが合併しましたので、神奈川フィルまで入れますと首都圏には9つございます。あと群馬、それから金沢、名古屋にはセントラル愛知と名古屋フィルという2つがございます。関西は京都市交響楽団、そして大阪には4つ、広島、九州、大体札幌から九州で、四国は残念ながらまだオーケストラ連盟加盟のプロの楽団はございません。首都圏の9つのオーケストラとあとは地方の、地方オーケストラと、こういう大きな分け方になります。
地元大阪でございますが、天下茶屋のあたりを通られますと大阪フィルハーモニーという大きな看板が見えます。こちらがもう創立50数年で、2年ほど前に亡くなられました朝比奈隆先生がおつくりになり、運営をずっとされてきたオーケストラでございます。それから、私ども大阪シンフォニカー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、そして10数年前に大阪府がつくりました大阪センチュリー交響楽団というこの4つのオーケストラが大阪にはございます。したがって、京都と合わせて関西では5楽団あるという状況です。
さらにそれ以外のいろんなセミプロと言っていいかどうかわかりませんが、一時的なオーケストラもございます。23という数が多過ぎるのか、少な過ぎるのか、皆さんはどういうふうにお感じになられるでしょうか。欧米と比べてみます。私どもは一昨年に東欧のルーマニアで公演してまいりました。ルーマニアというのは人口が2,200万人だそうでして、プロのオーケストラが32あります。欧米ですと、人口10万人の都市には必ずその町のオーケストラがあるというふうにお考えいただいたらいいのではないでしょうか。
したがって、日本でいいますと、東京でしたら23区は当然10万人を超えていますからすべての区にオーケストラが1つあってもおかしくないです。山陰でしたら、県庁所在地には当然1つぐらいはあってもいいですし、もう一つあってもいいということになるのかなと思います。
次に、オーケストラが演奏会をするホールのキャパシティーをお考えいただきたいと思います。大阪を例にとりますと、いずみホールというホールございますね。こちらが821席です。シンフォニーホールで1,700数席。非常に大きなホールとして有名なフェスティバルホールが2,500席ぐらいございます。昨今一番多いのが1,300前後というホールです。小さいところになりますと、もう四、五百ぐらいのキャパシティーです。大体オーケストラの演奏会を聞くに適したホールというのは800席ぐらいから2,000席の間ぐらいのところだとお考えいただきましたらよろしいかと思います。
それで、プロ野球でしたら9人対9人、25人ずつ50人の野球選手が入れかわり立ちかわり試合をして、それを甲子園球場でやれば5万人、東京ドームでも5万人が生で見ることができます。テレビというのもありますけど、基本的に生で見るというのは大体そのぐらい見られるわけですね。5万人のキャパのホールがもしあったとしても、オーケストラの生演奏には適しませんので、1,000とか1,500のホールでの演奏をせざるを得ないということになります。舞台上に何人ぐらいの奏者がいるかといいますと、曲にもよりますけど、少なくとも60名弱、多いときは100名ぐらいの演奏者が乗っているわけです。そうすると、満席であったとしてもお客様の1割の演奏者が約10倍のお客様を相手に演奏をさせていただくということになります。したがって興行という面から見ましたら、非常に効率の悪い職業であると言えます。
アメリカの例をとりますと、プロとか市民オケとかセミプロ的な存在、それからいろんなアマチュア、学生オーケストラというのがありまして、全米オーケストラリーグというのがございます。こちらへ加盟しているオーケストラの団体数は約2,000あります。このオーケストラリーグの年1回の総会というのは、大体シーズン終わりの6月後半に都市の持ち回りで開かれます。私はミネアポリスとサンフランシスコに行きましたが、町じゅうが何年かに1回当たってくるオーケストラ総会ということで、大歓迎ムードです。幾つかの演奏会もありました。シビックホールといいますか、国際見本市会場というようなイメージの所で2,000の団体が集まって、いろんな会議をしております。音楽監督ばかりや、運営者ばかりの会議をしていたり、広報担当は広報担当でそういうことをしていたり、もちろんいろんなレクチャーもございます。
そういったオーケストラという文化が一つの―それで食べているというと変な言い方ですけど、それで一つの職種として産業として発達しているというような感がいたしました。日本の場合は23団体しかございませんので、内輪でちょこちょこと集まってやるような感じの総会はございます。
ちなみに、住みやすい街とはどんな街でしょうと欧米で言われるとき―いろんな観点があるのですけども、一応都市ということで考えたときに、地下鉄が走っていてその街のオーケストラがある街という物差しがございます。地下鉄が走っているということは、それなりに交通機関も発達しているでしょうですし、いろんな意味で便利であるということが言えます。では、オーケストラが何で住みやすい街の基準になるかというと、やはりそこの市長さんなり議会なり、市民の方々がその街にきちんとオーケストラという文化を育てていこうという姿勢を持っているからです。それは、オーケストラだけでなくてオペラもあれば、絵画もあり、行政がきちんと文化も人の営みの中に入れているのだよということです。要するにオーケストラが生活できる、オーケストラの楽団員が食べていけるということは、それなりにその街が文化的な発展もしていますよという物差しになるということなのです。
元の話へ戻りますが、日本の場合、先ほど申し上げた23団体といいますのは、大体、政令指定都市と言われるところに、その拠点が一つずつあるという感じかと思います。1,000人、1,500人程度のお客様を対象に演奏会をいたしますので、多くの方に観賞いただこうということになりますと、もう少しオーケストラあってもいいのではないかと思います。
それでは、オーケストラがどんなふうに運営されているのかということでございますが、23のオーケストラといいましても、その運営形態というのは本当に多種多様でございます。いわゆる公立、お役所がやってらっしゃるオーケストラで一番有名なのは東京都響、京都市交響楽団、それから大阪センチュリー交響楽団、これが大阪府ですね。また、石川県金沢市のアンサンブル金沢というようなところが、いわゆる公務員的なオーケストラでございます。
次に、大マスコミ、要するにNHK交響楽団と読売日本交響楽団です。東京都響を合わせると御三家と言われるオーケストラです。それと、地方オーケストラの多くがとっている形態としましては、地方自治体と民間の有力な企業ということになります。例えば九州交響楽団は、福岡県、福岡市、九州電力が支えています。広島交響楽団も広島県、広島市、中国電力が、名古屋フィルハーモニーは、トヨタ自動車と名古屋市、札幌交響楽団は北海道新聞と札幌市といったように、大きな地元の企業なり、マスコミなりと地方自治体が半々でその運営をしているというケースがあります。
大阪というところは非常に特殊でございまして、ここ10数年前に大阪センチュリー交響楽団ができるまでは、大阪フィルと関西フィルと私ども大阪シンフォニカー交響楽団で、これは基本的には3つとも民間でございました。大阪フィルというのは50年前からございましたので、唯一無二という時代が30数年続きました。大阪市、大阪府も1億円近い支援をして、住友銀行や関西電力、そういったところが運営に参加をされております。私ども大阪シンフォニカー交響楽団、それから関西フィルハーモニー管弦楽団はもう全くの民間で、いわゆる大阪府、大阪市といったような地元の地方自治体からの支援というのはほとんどございません。
このようにいろいろな運営形態があるわけですけれども、ではそこの楽団員というのはどうやったらプロのオーケストラの楽団員になれるのかという話でございます。
2回目の「へぇ」でございます。日本全国の4年制の大学、短大合わせて、音楽大学、芸術大学、もしくは、教育大の音楽専攻とかそういったところがどの程度あると皆様は思われるでしょうか。進学のご担当をされている先生ですと、大変身近なところにあるかとは思うのですが、実は数年前ですけれども一度数えたことがございまして、全部で75大学あったのです。えっと思われますよね。75もあるやろかと。
有名なのは、国公立ですと東京芸術大学とか、京都市市立芸術大学、東京の私立でしたら、桐朋、国立、武蔵野といった音大ですね。あと東京音大。大阪ですと大阪音楽大学、それから大阪芸術大学、大阪教育大学それから相愛大学、同志社女子、武庫川女子、とかいろいろもっと広がっていくわけですけれども、そういったところに音楽学部、音楽学科、音楽専攻があるわけです。75も大学があって、プロのオーケストラの楽団員になろうと思ったときに、23しかないのですよ。
音大の学生には、できれば音楽で食べていきたい、音楽で食べるというのはいろんな方法がありますけれども、歌のソリスト、バイオリンのソリスト、ピアノのソリスト、そういうのになりたいという人が多いと思います。世界的なコンクールに通ってリサイタルを開くのが夢で楽器を始めたという方が多いかと思うのです。その次の選択としまして、いわゆるオーケストラの楽団員として日々演奏をして生活をするというのがあるのです。しかし、ある楽器、例えばトランペットの首席奏者ですと、要するに一番奏者、これは各楽団まず1人しかいません。場合によってローテーションのために2人とったり、副首席をとったりすることはございますが、基本的にはトランペットの一番、首席というのは1人なのですね。
プロ野球選手でしたら、「4番バッターです。エースのピッチャーです」 といっても、まあ昔でいう王、長嶋、そういった方々は40歳ぐらいまで現役を続けられましたけど、恐らくプロ野球に入る毎年12球団の選手の平均在籍年数といったら、10年ぐらいじゃないでしょうか。18歳で入って28歳ぐらいで、もしくは場合によってはもっと早くけがをされたり、芽が出なかったりということでおやめになっていく選手もいらっしゃいます。ついこの間までレギュラーだった選手が、気がつくと替わっていることもあります。本当のスーパースターは15年、20年というその席を譲りませんけど、基本的にはそれも40歳前後で引退をするということになります。
つづく

HOME