オーケストラの場合はといますと、管楽器は大体50歳過ぎぐらいと割と早く引退します。楽器奏者、弦楽器奏者は、60歳定年制をとっている楽団が多いものですから、二十二、三で入ってこられて、大体普通の企業の人並みにいらっしゃるというケースが多くなります。
75大学からプロを目指した音楽家が卒業して、プロのオーケストラに入りたいと思いましても、毎年毎年公募しているわけではございません。たまたまトランペットの一番があいたと。そこへオーディションをいたします。フルートの首席のオーディションをしたら大体100名前後は必ず受けにきます。ホルンの首席オーディションで四、五十名受けにきます。バイオリン、これも各楽団の人数が多いですがそれにしたって20人やそこらは受けにこられます。世界じゅうから来ます。
今度私どものビオラのメンバーに入ったのはチェコ人でしたし、外国人の枠という数字を設けている楽団もあります。そういう枠を設けなかったら本当に世界じゅうからいろんな奏者が受けにきます。例えばフルートの一番をとりたいということになりますと、100人をオーディション何次審査というところまでして、結果1人しかいらないわけです。それも順位を決めるコンクールではございませんので、そのオーディションで100人のうち1人を絶対とらなきゃいけないわけではありません。ちょっと今回は該当者なしということもございます。
そして、それはいつあるかわからないわけですね。いろんな楽団のどこのポジションがどういうふうなタイミングでどういう理由で空くかというのは、本当にこれはわかりません。突然演奏者が吹けなくなってとらざるを得ないというケースもあるでしょうし、演奏者が退団をしたというケースもあります。何らかの形で空席ができたことに対して補充をするわけなのですが、新たな楽団をつくらない限りは、これを相当な倍率で受けにくるわけです。トランペットの首席になりたいなと思っていて、ご自身が大学を出て二十二、三から大体年齢制限ありますから三十二、三ぐらいの人をとるわけですけれども、その間にたまたま公募があり、その日に受験ができてかつ最高の状態へもっていかなくてはなりません。オーケストラのメンバーになっているのは、強運の持ち主だと言うことです。
こうしてなれたオーケストラの楽団員なのですから、収入はすごくいいのだろうと、そういうふうに思われる方もいらっしゃるかと思います。我々オーケストラ連盟が課題にしております楽団員の給与目標というのがございまして、何とか先生方、公立の学校の特に音楽教育の先生方のお給料をもらえるようにしたいというのが目標でございます。したがいまして、公立の中学校とか高校の音楽をご担当されています先生方のお給料よりも、プロオケのメンバーというのは大体平均給与が低いと、楽団によって若干差はありますけれども、このようにご理解いただければよろしいかと思います。
ちなみに、私ども大阪シンフォニカー交響楽団、いわゆるトゥッティー、一般奏者でございますが、最近20万円になりました。ボーナスはございません。社会保険は去年から、交通費の全額支給は一昨年からと。これが現状でございます。つい数年前までは15万円でした。それが3年前ぐらいに17万円にして、やっと今20万円にすることができたというところです。副首席、首席というのはさらにそれに3万円ずつぐらい手当がつくというふうにお考えいただければよいかと思います。これは年齢に関係なく、40何歳で子供が何人いますといっても25万円、首席なら26万円と、ボーナスもないというような状況が現在の楽団員の給与水準です。
非常にハードルの高いオーディションに合格された方、75大学のその中の本当に限られた学校、限られた方、それもその前後何学年に1人というような優秀な奏者がもらえる給料がそれしかないというのが日本の現状です。欧米では我が町のオーケストラということで、楽団員が、音楽家がきちんとした生活が保てるというところからしますと、まだまだ日本の場合はそこに至っておりません。
我々の楽団で弦楽器奏者に、いつからバイオリン始めたのかと聞きますと、「3歳です」、「4歳です」と答える人がほとんどで、自分からバイオリンを習いたいと言い出して習いにいった記憶のある人っていうのは余りプロになっていません。それだけ早くから、気がついたら習わされていたという方が多いのです。
学校から帰ってきたらお母さんに練習へ行きなさいと言われ、来る日も来る日もバイオリンのおけいこをするわけですね。それから中学生になりますと音楽の高校を、高校生になりますと音楽大学を受けようと思います。そのために大学の教授がいらっしゃるようなところへ楽器を持って週に1回とか2週間に1回とかレッスンに通うわけですね。私どもの楽団で島根県や鳥取県出身者に聞くと、週に1回トロンボーン持って夜行列車や飛行機で東京まで通っていましたと言っていました。もちろん、それは全部自前です。そういったことをして、さらに大学院まで行く人も多くいます。それから卒業時点でオーディションがなければ、海外留学をし、ドイツで2年間勉強した、フランスで勉強した、そういう教育を受けた人がごろごろいるのです。
ソリスト、それから一部の指揮者で、もう本当にこれは超有名になりましたら、物すごくお金を得ることができるわけです。しかし、大体普通のクラスのソリストであったり、普通のクラスのオケマンっていうのが、それだけ何学年に1回しかないようなプロの道を歩めたにもかかわらず、収入でいうと一番低いのです。音楽の先生方になられる。そういう方はそれなりに公務員とか学校の先生のお給料をいただけます。それでソリストや指揮者、プロの楽団はとんでもない、まして音楽を教えることもできない、ではどこかの民間企業にとりあえず頑張って縁故やら何かで受けて入ったという人が一番給料が多いという、不思議な世界なのです。才能があり、小さい子供のころからの血の出るような努力をしたにもかかわらず、そういった待遇というものは恵まれておりません。
したがって、もしプロの演奏者に自分の子供がなりたいと言ったら、まず私は反対すると思います。相談を受けたら、やめとけと、食べていかれへんぞ!と言うと思いますが、一方でそれではいけないという気持ちも多々ございます。
ちょっと話がかたくなりましたので、3番目の「へぇ」にいきたいと思いますが、オーケストラのバイオリン奏者が持っている弓、プロの楽団員が持っている弓はいくららぐらいするものかご存じの方はいらっしゃいますか。バイオリンは想像つくと思うのですが、弓です。
大体300万円ぐらいします。15万円しか給料もらえないのに300万円もするのです。あの白いところは、あれは消耗品なのです。馬のしっぽです。私は子供のときにずっと白馬のしっぽやとばっかり思っていたのですが、違うのです。普通の馬のしっぽで色を抜くだけなのですが、消耗品ですからどんどん切れていきます。その周りの部分ですね、こするところでもなければ何でもない。あんなの何の棒でも、何の木でもええように思うのですけども、これが実は300万円ぐらいはします。もちろん、セットで何かビデオつき3万円とかいうのも売っていますけど、いわゆるプロ使用仕様というような楽器になりますと300万円ぐらいします。
弦楽器の奏者が弓を売っているところへ行きますと、これをちょっと使ってみてくださいと言われ、幾つか弓を出してくれるわけですね。そうすると、一つだけものすごく細かいパッセージが弾けたりと大変いいものがあるのです。そういう違いなのです。ですから、古い木であったり、弾力性があったり、いわゆる美術品ではないのですけども非常に高い技術を要してつくられるものです。また不思議と楽器というのは新しいものより古いものがよいとされています。
ちなみに、弓がそのぐらいしますが、楽器は大体その倍はしますね。私どものコンサートマスターが現在持っている楽器というのは大体2,500万円から3,000万円ぐらいです。オケの20代の女性が持っている楽器の値段聞くと、ベンツよりは高かったですって言っていますから、800万円とか1,500万円とかしています。この前、大阪フィルの楽団員さんが、何か電車の中で寝過ごして忘れたというのがありましたね。あのときも2,000数百万円とかいう話でした。
この中で趣味が合唱という方はいらっしゃいませんか。合唱団の方は、くれぐれもオーケストラと共演するときに、舞台裏でひょいと置いてあるいすの上に座り込んだりしないようにしてください。舞台裏っていうのはいわゆる素人の人は入ってこないという前提で楽器が置かれています。合唱団が入ってらっしゃるときは特に気をつけてはいますが、1,000万の楽器がひょこっと置いてあって、あれを合唱団員の方が踏んだら終わりやぞって思うことが何回かありました。プロのオーケストラが演奏しているときの楽屋から舞台裏に関しては、なるべく立ち寄らないようにした方が賢明かと思います。
ストラディヴァリウスが何億円するというようなお話は聞かれたことがあるかと思います。先日もアメリカでチェロがストラディヴァリウスであって、何か燃えるごみか燃えないごみかのところに置いてあったというようなこともございました。やはり、いい音色を聞かせる楽器というのはそれだけの値打ちがあって、二度とつくれるものではございませんので高いということです。
楽団員が持っています木管楽器は100万円から200万円ぐらいでしょうか。金管楽器が50万円から150万円の間ぐらいでしょうかね。大体そんなイメージをしていただければいいかと思います。
あとオーケストラが用意する楽器というのが何点かございます。コントラバスですと我々が持っているのが800万円ぐらいです。これが8台あります。何かお金の話ばかりして恐縮ですけど、ティンパニで、レフィーマっていうティンパニがよくって、我々も欲しいのですが、買えません。1,500万円ぐらいします。今、私どもが持っているアダムスという楽器で7、800百万円というところでしょうか。チェレスタっていうこういう小さい、何かオルガンと木琴合わせたような小さな楽器があるのですね、文化庁から何とかお金引き出して買いました。600万円です。
じゃあ、オーケストラっていうのは運営をしていくにあたって生産性っていうのはあるのかといわれますと、ほとんどございません。オーケストラで何かものをつくる、つくれませんし、オーケストラで何かお金をもうけるということになりますと、ほとんどないですね。
オーケストラは演奏会しますね。プロのオーケストラの場合、多いところで160回ぐらい年間演奏しますが、私どもで大体100回をちょっと切れるぐらいです。120回ぐらいの演奏会をしているのが経営上も演奏上も一番いいと言われます。
演奏会をしようと思いますと、練習がございます。オーケストラの練習というのは、基本的には譜読みは各自家でしてきます。それからオーケストラの練習会場に集まって、アンサンブル、音づくりをします。定期演奏会で3日ないし4日ぐらい練習をして、本番に臨むわけです。一般公演ですと大体1日、2日、ベートーヴェンの第九なんかになりましたら、もう練習1回で何公演もするとか、そういったこともございます。
その中で、主催公演と言われている手打ちの楽団がやる公演と、依頼公演、いわゆる営業公演というのがあります。主催公演で、大阪シンフォニカー交響楽団が定期演奏会をやりましたといいますと、1晩で大体700万円ぐらいの赤字が出ます。それ以外の主催公演で、入る人数にもよりますけれども、大体300万円から500万円ぐらいが赤字になるでしょうか。
何で赤字になるのだろうということですが、単純にかかる経費だけ申し上げますと、まずその日借りるホール代です。シンフォニーホールを借りますと1晩150万円かかります。東京のサントリーホールは250万円です。チラシの印刷代、新聞の広告代があります。それからびっくりされるかもしれないですけど、楽譜代ですね。オケマンというのは基本的に楽譜なかったら演奏できませんので、オーケストラ用の楽譜を買うわけなのです。ベートーヴェン、モーツァルト、チャイコフスキー、このあたりは安く、セットで3万円から5万円で買えるわけです。
ところが、レンタルしかしてない楽譜っていうのがあるのです。例えばアメリカのある出版元に作曲家がそこを指定してしまって、レンタルしかしませんというような、ラフマニノフであったり、ショスタコーヴィチであったり、マーラーであったりします。そういう楽譜っていうのは演奏会ごとに使用料を払って借りてくるしかないのです。この借り代っていうのが時間とか編成にもよるのですけど、1曲当たり15万円から25万円ぐらいかかるわけなのですね。ベートーヴェン、モーツァルトばかりというわけにはいきませんので、当然そういうレンタル譜のものを取り入れていかなければならないのです。
それから、先ほど申し上げました楽器ですね。これも、そのときによって楽器が必ずしもあるとは限りません。有名なベルリオーズ作曲の幻想交響曲、これにはチャーチベルという楽器がございまして、教会の鐘なのです。教会行って鐘をとってくるわけにいきません。ちゃんと音階も出ないといけません。これが大阪にはないのです。そうすると、東京のオーケストラにちょっと無理を言いまして借りてくるとか、レンタル楽器屋さんから借りるのですけども、わざわざ東京までトラックで取りにいって、演奏して、終わったら返しにいきます。仲間同士はただですけれども、レンタル屋さんだとまた何十万円かを払います。作曲家もその辺考えて作曲してほしいなと思うのですけれども、それはそこまで考えてくれませんので、そういうキンコンカンぐらいの話なのですが、そういう楽器が要ることもあるのです。私なんか最初全くの素人の商社マンからこの業界へ入りましたので、そんなもん何とかそこらの鐘で鳴りませんかって言ったら、えらく指揮者から怒られました。
それと先ほど申し上げましたオーケストラの楽団員の給料です。これが最低でも50人やそこらいるわけです。多い楽団だったら100人いるわけですね。わずかといえども50人、100人の人数になりますと、それだけで相当な金額になってきます。
ということで、大体日数で割りますと定期演奏会を1回やりますと700万円ぐらいの赤字にはなってしまいます。
A席5,000円といっても、現実にお客様で満席になることはなかなかありませんので、法人会員、個人会員というそれぞれ会員制度で収入を図っています。
オーケストラの収入の話をしましたけど、大きな柱としましては何がありますかといわれましたら、まずはそういうチケットと会員制度の収入ですね。それから行政、自治体からの文化的な支援、依頼公演での収入ということになります。日本の場合、国とか地方自治体からの文化予算というのが少ないのではないかと思ってらっしゃる方があると思うのですけど、数字だけを見たらドイツと変わらないのですよ。使い道が違うのです。ホールを建てました。この文化会館は地元出身の大臣、何とか先生が建てられた文化会館ですとか、そういうハード方面にはやたらお金はいくのですけども、オーケストラの経営であったり、オーケストラ楽団員の給料であったり、そういうソフトにはほとんどこないのです。ドイツなんかは全く逆で、ハードなんて200年前の建物で、いまだに演奏をしているわけですね。
そういった中で、定期演奏会というのが一体何を表しているかといいますと、オーケストラにとりまして定期演奏会というのがすべてなのです。いわゆる相撲でいう本場所と思ってください。あるオーケストラが定期演奏会をしますね。その日の演奏がよかった、悪かった評論家の方に好き放題書かれるのですけれども、それだけじゃないのです。まず、年何回定期演奏会をやれるかです。1晩で700万円赤字出るわけで、10回もやったら7,000万の赤字になります。それからどこでするかということです。近くの公民館でやっては、それでは定期演奏会になりません。オランダのアムステルダム・コンセルトヘボーは、コンセルトヘボーという会場がオーケストラの名前になっているぐらいです。やはり大阪でしたら世界に誇るザ・シンフォニーホールでやります、東京だったらサントリーホールでやっていますっていうのが、非常に意味を持つことになります。
それから、指揮者です。これも世界の偉大なマエストロと言われる指揮者が多々おりますので、どんな指揮者でするのか。またどんなソリストでするのか。どんな曲をするのか。そして、どんな演奏をしたのかということで、そのときのオーケストラは評価をされ、分けられていくのです。
したがって、いついつオーケストラ演奏会行きましたという方たくさんいますけども、やはり聴かれるのであれば、定期演奏会を聞いていただきたい。ある意味、研究発表の場というところがございますので、名曲コンサート的なプログラムよりはもう少しちょっと凝ったような、マニアックなような曲も取り上げざるを得ないのですけれども、オーケストラの本当のプロの姿を見ていただくのならば、定期演奏会で、どこで、どんな指揮者で、どんなソリストで、どんな曲でやっているのだということにちょっと注目をいただいてご判断いただければと思います。
大阪というのは非常に不思議なところで、大変文化が発達しているようにも思うのですけれども、悲しむべきかな、大阪府立の文化会館がございません。府立の美術館もございません。日本じゅう47都道府県がある中でこんな恥ずかしい地方自治体があるのでしょうか。鹿児島県立美術館はなかったかもしれないですが、たしか市立美術館はあります。県立、都立、府立、その殆どに美術館と文化会館がございます。我々のいる大阪は、府立の文化会館も美術館もないところでございます。
民間の力を借りてフェスティバルホールであったり、ザ・シンフォニーホールであったり、いずみホールであったりというホールはできてきていますが、大阪府、大阪市ともそういった文化にも目を向けていただければなと思っております。
最後に、私ども大阪シンフォニカー交響楽団の成り立ち等もお話しさせていただきます。大阪シンフォニカー交響楽団でございますが、私の母親でございます敷島博子が1980年に、当時、合唱をしていたのですけど、「オーケストラをつくりたいわ」って思ったのです。うちのおやじは普通の材木関係のサラリーマンでして、ハプスブルグ家と敷島家は同格では全くございませんので、大富豪ではございません。何も知らないがゆえに、その夢を持ちました。
ただ、夢を持ったから現在がございます。ウォルト・ディズニーが死んだ後にディズニーワールドができて、その開会式に臨んだ人が、ああ、これをウォルトに見せてやりたかったと言ったそうですが、ある人が、いや違う、彼だけがこれを見たのだと。だから、今ここにディズニーワールドがあるのだと言った有名な話がございますが、1人の50歳の主婦が見た夢が、現実化したのです。そして、さまざまな方のご支援、ご声援のもとに来年いよいよ25周年を迎えるオーケストラになろうとしています。
11歳から18歳の間は耳も一番いいときです。音楽を聞くことは非常に教育にもいいですから、学校公演で一度はオーケストラの生の感動を体験させてあげていただければと思います。特に商業学校の生徒さんの場合、もう翌年には社会へ旅立つ方が多いと思います。欧米にその方が出られたときに、オーケストラ聞いたことないっていうのは本当に恥ずかしいことですし、その喜びを知らないというのは非常に残念なことです。学校公演というのは特別な値段でやっております。何校か集まっていただいてシンフォニーホール1つを午前中借りるということですと、相当経費も抑えられるかと思いますので、こういうお集まりの機会にご計画を立てていただければと思います。
たまたま渡辺和さんという評論家の方が、この前の東京公演のプログラムにメッセージを寄せていただきましたので、これを読んで最後にさせていただきたいと思います。
『1人の人の情熱でオーケストラがつくれるものだろうか。プライド高く頑固な音楽家という職人を数十人束ね、彼らを動かすこれまた職人気質の裏方を配し、練習場や本番会場を確保し、ついでに聴衆まで集めねばならん。むろん音楽家もスタッフもかすみを食って生きているわけではない。膨大な額の先立つものが不可欠になってくる。オーケストラをつくる夢を見られるのは自治体か放送メディアなどの組織の長か、ほんの一握りの個人しかいなかった。日本でプロのオーケストラをつくる難問に挑み、何とかかなえた個人は指揮者という特殊な職業人だけだ。近衛秀麿に始まり、朝比奈隆や小沢征爾に至るまで状況が変わっていない。1人の例外が敷島博子である。指揮者でなければ政治家でも、大富豪未亡人でもない。大阪の当たり前の主婦である。今は楽団長の席を息子に譲り、静かに客席にまじるこの人の情熱がなければ、大阪シンフォニカー響という団体は世に存在していなかった。敷島がどんな苦労をしたのか、当小編で論ずるなど不可能。公式ホームページに上がる敷島の言葉を引用しておく。「私は出会った人に共感を持っていただくために、物すごい迫力をもって押し迫った経験を何度も持ちます。それは、オーケストラを育てるためにどうしてもそのお方が必要だったのであり、子供を育てるために食料を得ようとする必死の母の心にも似たものがあったかもしれません」修羅場をくぐり抜けた母でなければ書けない強烈な言葉。』
以上でございます。是非また、私どもの演奏会場でお目にかかることを楽しみにしております。ありがとうございました。
本稿は。6月28日の講演内容を「商業教育第4号」の記載用に、加筆修正を加えたものです。