大阪交響楽団 2017年度 定期演奏会 曲目解説

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第209回 定期演奏会   4月13日(木)
寺岡 清高

2017年4月13日(木)19時00分開演
 
2016~2018年度全6回シリーズ
ウィーン世紀末のルーツ
~フックスとブラームスから始まる系譜(3)
 
 
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)
大学祝典序曲 作品80


  「祝典序曲」と銘打たれているからには、華やかなファンファーレが麗々しく吹き鳴らされるかと思いきや、不気味な行進曲がうごめくように始まる。ブラームスがほぼ同時期に作った『悲劇的序曲』にも通じるような異常な出だしだ。
  ようやく一条の光が射して祝典序曲らしくなるのは、かなり経ってからのこと。空から響く天使のラッパを思わせるがごとく、トランペットが清らかなメロディを奏でる。メロディは、『僕たちは立派な学び舎を建てた』というドイツの学生歌に基づくものである。(なおグスタフ・マーラー [1860-1911] も自身の『交響曲第3番』の冒頭主題にこの学生歌を引用しただけでなく、最終楽章の終結部分に、該当メロディを基とした「天使のラッパ」の手法を用いた。)それに続いて『祖国の父』、『あの頂からはだれが来る?』といったドイツの学生歌の引用で序曲は盛り上がる。
  ここまでをブラームスが得意としたソナタ形式の「提示部」とするならば、「展開部」では提示部で登場した学生歌が交わりながら、やがて戦いの音楽とでも呼ぶべき激しい曲想に突入。そしてシンバル・大太鼓・トライアングルという「鳴り物」(これらの打楽器をブラームスは滅多に用いなかった)が盛大に打ち鳴らされると、曲全体の結論部分ともいえる「再現部」だ。勝利に満ちた響きで学生歌が奏でられ、中世イタリアのボローニャで生まれた古い学生歌『さあ楽しもう』で全曲が締めくくられる。
  曲が作られたきっかけは、当時ドイツ…現在はポーランド…のブレスラウの大学から、ブラームスが名誉博士号を授与されたこと。とはいえ、その返礼にありきたりの祝典曲を書くつもりなどなかったブラームスは、19世紀初頭に吹き荒れた保守反動体制の中で解体を余儀なくされたドイツの学生団体(ブルシェンシャフト)運動の中から生まれた学生歌=抵抗歌に注目する。そしてそれらを基にして、「大学の自由」を謳い上げる大規模な演奏会用序曲を生み出し、異色の祝典曲とした。(それでも皮肉屋だったブラームスは、当作品を「酔っ払い学生のがさつな歌のオンパレード」と呼んではいるのだが。)
   
   作曲年代 1880年
 初  演 1881年1月4日 ブレスラウ 作曲者自身の指揮
 楽器編成
 ピッコロ1、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、
トランペット3、トロンボーン3、テューバ1、ティンパニ、シンバル1、大太鼓1、トライアングル1、弦五部




ロベルト・フックス(1847-1927)
セレナーデ 第3番 ホ短調 作品21


  セレナーデとは何か?語源については諸説あるが、例えばイタリア語の “serenare” (静める、落ち着かせる)から来たという考え方がある。夜のしじまの中、愛する女性のいる窓辺の下に立ち、男性がギターを片手に恋の歌を歌うという、セレナーデの元々のスタイルにふさわしい説といえるだろう。
  やがてセレナーデはとくに古典派の時代になると、管楽器をメインにした編成に基づき、戸外で、それも特別の記念日に演奏するレパートリーと化す。さらには演奏会用に特化したものも書かれるようになった結果、徐々に弦楽器も加わって、やがて弦楽器だけによるセレナーデも生まれていった。
  そのような流れのなかで書かれたのが、フックスによるセレナーデである。そもそも彼がセレナーデを作曲するきっかけとなったのは、尊敬する先達であり支援者であったブラームス(1833-97)が同ジャンルを2曲手がけていたこと…さらにそこには交響曲の作曲に向けたトレーニングといった意味合いも加わっていた…にあるのだが、ブラームスのそれには管楽器が入っているいっぽう、フックスの最初の3作はいずれも弦楽合奏用である。
  しかも『セレナーデ第3番』では、長調を基本としていたブラームスの場合とは異なって、西洋音楽の中で「沈痛な悲しみ」を表現するホ短調が用いられている点も特徴だ。つまり、セレナーデの元々の用法を超えてロマン派特有の憂いに溢れている。さらに当作品は4つの楽章から成り立っていることを省みるに、細かい形式を度外視すれば…あるいは自由な形式といってもよいかもしれない…短調の交響曲とも呼べる内容となっている。
  『ロマンツェ』(恋の歌を含む庶民の歌という意味合いを語源に持ち、伝統的にセレナーデの1楽章としてよく用いられた)と題された第1楽章からして悲しみに満ち、『メヌエット』と表記されている第2楽章は一応ト長調ではあるものの、その曲想はしばしば短調に傾く。第3楽章は「アレグレット・グラツィオーソ」(やや軽快に喜ばしく)という指示のもと、ホ長調を基本としてはいるものの、「喜ばしげに」というにはあまりにも傷つきやすい繊細さを具えている。そしてフィナーレは、ブラームスも好んだ「アラ・ツィンガレーゼ」(ジプシー風)。ここに至って荒々しい短調の曲想は、時にブラックユーモアとも呼びうる爽快ささえ孕みながら、作品全体を覆っていた影を吹き飛ばして疾走する。

   作曲年代 1877-78年
 初  演 1879年1月6日 ウィーン ハンス・リヒターの指揮
 楽器編成
弦五部




フランツ・シュミット(1874-1939)
交響曲 第2番 変ホ長調


  シュミットの創作活動は、ウィーン楽友協会音楽院でフックス等に師事していた20歳代までの前半期と、40歳直前からの後半期に分けることができる。ほぼその間に挟まっている、いわば空白の10年近くはというと、彼がウィーン宮廷歌劇場管弦楽団(およびウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)のチェロ奏者としてオーケストラ活動をしていた1896年から1914年まで。そしてこの時期の大半は、シュミット自身愛憎半ばする感情を抱くこととなるマーラー(1860-1911)が、宮廷歌劇場芸術監督およびウィーン・フィル常任指揮者としてこのオーケストラと密接に関わっていた10年間に重なる。
  シュミットが『交響曲第2番』を手がけ始めたのは1911年のこと。しかも当作品では、伝統的な交響曲の形式を打ち壊した…またそれゆえに後世にも大きな衝撃を与えた…マーラーの方向性とは異なり、様々な手法を繰り出しながら、文字通り交響曲の形式の維持が図られている。(まただからこそ、シュミットを保守的な作風の持ち主とする見方が往々にしてなされるのだろう。)だが、伝統的な形式があえて守られることで、逆にそれによってもたらされる違和感が否応なく立ち現れているのが当作品なのではないか?
  たとえばソナタ形式に基づく第1楽章。提示部では何の序奏も前奏もなく、ヴァイオリンや木管楽器によって第1主題〔譜例1〕が示されるが、これはメロディというよりも、本来であればそれを彩る、あるいはそれが登場するための花道を用意するはずの「音の波」のような動機(モチーフ)と言ってよい。しかも、最初はきわめて牧歌的な雰囲気で始まるものの、すぐさまグロテスクな響きを伴う行進曲(マーラーの交響曲第6番『悲劇的』に登場する破滅的な行進曲を彷彿させる)へと変容を遂げてゆく。また複数のホルンが1つのメロディラインを形造る第2主題は、後期ロマン派特有の官能性に溢れたねっとりした内容〔譜例2〕だ。
  第2楽章は、特にベートーヴェン以降の交響曲ではお馴染みの、またシュミットが得意とした変奏曲形式(テーマと9ないし10の変奏)だ。なお近代ヨーロッパにおける変奏曲には、1つの存在が様々な変容を経ることで当初の姿を超越したものへと育ってゆくという、成長願望が刻まれている。というわけで、木管楽器によって奏でられる当楽章のテーマ〔譜例3〕もきわめてシンプルなのだが、変奏が進むうちに元のテーマが分からなくなるほど、極端なまでの変容を遂げる。ここに聴かれるのは、もはや単純な成長神話への信仰ではない。成長の末に複雑怪奇の袋小路へ陥った、近代社会の縮図なのだ。
  しかも、憂愁に溢れた第8変奏で変奏曲が終わるのかと思いきや、第9変奏はスケルツォとなり、しかも「スケルツォ楽章」と呼んでも差し支えないほどに、巨大化した変奏部分と化す。元々のテーマもグロテスクに変形され、華やかではあるが暴力的な楽想(さらに第10変奏はトリオと第9変奏の拡大版という異例の形になっており、いわば「第9’変奏」といった内容だ)が続く。
  第3楽章はロンド形式。といっても、ロンド形式の楽章でお馴染みのようにすぐに主部が始まるかと思えばさにあらず。オルガニストでもあったシュミットらしく、厳粛なコラール風の序奏部が延々と続くという変わり種である。なお序奏のイングリッシュホルンに始まり、他の管楽器によって受け継がれるメロディ〔譜例4〕は第2楽章のテーマと音楽的関連性を持っており、やがて第1楽章の第1主題を交えながら…ここに至ってこの主題から派生して生まれたのが当楽章のコラール風の序奏であったことが分かる…、楽章そのものが展開されてゆく。そして、第1楽章の「音の波」が押し寄せる中、金管が分厚い響きでコラールを咆哮する終結部のクライマックスへ。
 
 
   作曲年代 1911-13年
 初  演 1913年12月3日 ウィーン フランツ・シャルクの指揮
 楽器編成
ピッコロ1、フルート3、オーボエ2、イングリッシュホルン1、Esクラリネット1、クラリネット3、
バスクラリネット1、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン8、トランペット4、トロンボーン3、
テューバ1、ティンパニ、大太鼓1、シンバル1、トライアングル1、小太鼓1、タムタム1、弦五部


小宮 正安(ヨーロッパ文化史研究家・横浜国立大学教授)
 
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