大阪交響楽団 曲目解説 名曲コンサート 2017年度

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2018年度 名曲コンサート 曲目解説

 
 
第102回名曲コンサート  7月7日(土)
外山 雄三
「シェエラザード」譜例1
「シェエラザード」譜例2

 
ロシア・ロマン派音楽の系譜 Vol.2
 
 
2018年7月7日(土)
昼の部 13時30分/夜の部 17時00分 開演

 

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキ-(1840~93)
 歌劇「エフゲニー・オネーギン」作品24より“ポロネーズ”

 
 19世紀ロシアを代表する作曲家、チャイコフスキーは「白鳥の湖」をはじめとする三大バレエや交響曲など、管弦楽作品で広く知られているが、実は歌劇も10作以上、手掛けている。中でも最高傑作とされるのが、ロシア近代文学の祖アレクサンドル・プーシキン(1799~1837)による同名の韻文小説を基に、1878年に完成させた「エフゲニー・オネーギン」(全3幕)。オネーギンは少女タチアーナの純愛を拒絶した上、刹那の感情のもつれで親友を殺し、自責の念から放浪の旅へ。時を経て成長したタチアーナの魅力に気づき、今度は自分が求愛をするも、拒まれてしまう虚しい物語。チャイコフスキーはタチアーナの純真に力点を置き、主人公を愚かな男として描いている。
 オネーギンが、成長して美しい貴婦人となったタチアーナと再会を果たす、第3幕の冒頭を飾るのが、この「ポロネーズ」。宴が開かれている大広間で流れるBGMと言った風情で、物語の本筋と直接の関係はない。ショパンのピアノ作品でもおなじみの「ポロネーズ」とは、ポーランドの民俗舞踊で3/4拍子をとり、「http://sym.jp/files/lib/4/55/201806282047363937.jpg」というリズム遣いが特徴。バレエ作品と同様、甘い旋律に豪奢な管弦楽法が施され、ペテルブルクの華やかな社交界の集まりを演出する。
 
●作曲年代 歌劇:1877~78年
●初  演
歌劇全幕:1879年3月29日、モスクワ(モスクワ音楽院の学生たちによる小規模な上演)、ニコライ・ルビンシテイン指揮。1884年10月19日、ペテルブルク帝国劇場、エンリコ・ベヴィニヤーニ指揮。
●楽器編成
ポロネーズ:フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部
 
 
モデスト・ムソルグスキー(1839~81)
交響詩「はげ山の一夜」(リムスキー=コルサコフ編)

 
 19世紀末、民族主義的な芸術音楽の創造を目指した作曲家集団「ロシア五人組」の1人だったムソルグスキー。アルコール依存に苦しみながらも、歌劇や管弦楽、器楽曲など多彩なジャンルに、印象主義を先取りするような、独創性ある作品を遺した。この交響詩は元々、ウクライナの8つの民話を集めた文豪ニコライ・ゴーゴリ(1809~52)の処女作「ディカーニカ近郊夜話」収録の一篇「降誕祭の前夜」を題材とする歌劇「ソロチンスクの市」中の1曲で、「若者の夢」と題された作品。物語の本筋とは関係なく、悪魔が跳梁跋扈する夢の場面を描いている。結局、歌劇自体は作曲者の死去で、未完に。しかし、残されたスケッチのピアノ譜を基に、盟友のニコライ・リムスキー=コルサコフが1881年に編曲とオーケストレーションへ着手。2年後に管弦楽曲として完成をみた。
 曲は基本的に3部形式だが、とても自由な体裁。弦楽器による細かな三連符の連続が闇の精霊たちが飛来する様子を示し、金管の重々しい叫びが、集会の開式を宣言する。しかし、忙しない楽想が次々に現れ、金管が「静まれ!」とばかりに威圧。そして、中間部では、響き渡るトランペットのファンファーレと共に、闇の王チェルノボーグが登場。行進曲とともに始まる厳かなミサで、王を賛美。弦と木管が静かに呪文を唱え始め、次第に盛り上がる。やがて主部が再現され、これまでの旋律の素材がより厚いサウンドを伴って現れ、再び闇の精霊たちが踊り狂い、興奮は最高潮に。しかし、遠く村の教会から鐘の音が聞こえてくると、途端に意気消沈。コーダへと入り、ハープが日の出を告げ、クラリネットやフルートのソロが、白み始めた空と平和な朝を迎え入れる。
 
●作曲年代 原曲:1874~81年 編曲:1881~83年
●初  演
1886年10月27日、ペテルブルクのロシア音楽協会の交響楽演奏会。編曲者が指揮。
●楽器編成
ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、チューブラーベル(チャイム)、シンバル、タムタム(ドラ)、大太鼓、ハープ、弦五部
 
 
ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844~1908)
歌劇「サルタン皇帝」より”熊蜂の飛行”

 
 「ロシア五人組」の1人であった、リムスキー=コルサコフ。貴族の出身で、海軍兵学校卒のエリート軍人だったが、後に「五人組」のリーダーとなるミリイ・バラキレフ(1837~1910)との出会いをきっかけに、音楽家へと転身した。自在で色彩感あふれるオーケストレーションの妙技は、既に前曲「はげ山の一夜」でご体験の通り。独特のオリエンタリズムや民族色を漂わせたメロディーメーカーとしての卓越した能力も相まって、代表作である交響組曲「シェエラザード」をはじめ、3つの交響曲や歌劇など、今も多くの作品が上演機会に恵まれている。
 56歳の時に完成した歌劇「サルタン皇帝」(プロローグ付き全4幕)は、プーシキンの原作に基づき、王である父の誤解から追放された王子が、流れ着いた島で一羽の白鳥を救ったことから、幸運へと導かれてゆく冒険譚。当曲は第2幕第1場、熊蜂が白鳥(実は美しい姫)を取り囲むシーンで、声楽を伴わない間奏曲として奏される。弦楽器からフルートへと受け渡されてゆく、16分音符による途切れることのない半音階で上下するフレーズは、言うまでもなく羽音を表現。極端なダイナミクス変化が、まさに襲い掛からんとする緊迫感を倍増させる。ヴァイオリンやピアノからテューバまで、様々な楽器のソロ用に編曲され、演奏技巧を示すのに最適の難曲として、愛奏されている。
 
●作曲年代 歌劇:1899~1900年
●初  演
歌劇全幕:1900年11月2日、モスクワ・ソロドフニコフ劇場、ミハイル・イッポリートフ=イワノフ指揮。
●楽器編成
熊蜂の飛行:フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、グロッケンシュピール、シンバル、弦五部
 
 
アレクサンドル・ボロディン(1833~87)
歌劇「イーゴリ公」より”だったん人の踊り”

 
 独特のオリエンタリズムを湛えた作風で知られるボロディンもまた、「ロシア五人組」の1人。有機化学者として、多くの重要な業績を残したが、30歳の時にバラキレフと知己になるまで、本格的な音楽教育を受けた経験は無かった。しかし、僅か6年後の1869年には「交響曲第1番」がバラキレフ指揮で初演、1880年に「同第2番」がドイツで紹介され、作曲家として国際的に知られた。歌劇「イーゴリ公」は、ちょうど「交響曲第1番」の完成直後に着手。12世紀にキエフ公国の北部ノヴゴロドを治めたイーゴリ公が、南方の異民族タタール(だったん人)と戦う物語。国民的な英雄叙事詩「イーゴリ公遠征譚」を素材に、作曲家自ら台本を手掛けた。しかし、化学者としての本業を優先したため筆が進まず、遂に53歳で急死。死後にリムスキー=コルサコフらの補筆で、上演可能な形に纏められた。
 「だったん人の踊り」は第2幕、囚われとなったイーゴリ公を、タタールの長コンチャークが客人としてもてなそうと、女たちに踊りを披露させる場面。劇中では合唱を伴うが、管弦楽のみで演奏される機会の方が多い。木管による序奏は、草原を渡る風のような遊牧民の調べ。本来は女声合唱によって「風の翼に乗って、故郷へとびゆけ」と歌われる美しい旋律をオーボエが奏で、「女奴隷たちの踊り」や勇壮な「男たちの踊り」が、やがてコンチャークを称える調べとなり、最後は熱狂的な全員の踊りへ。これらに先立ち、その前の場面で演奏される、軽快な「だったん人の娘たちの踊り」を追加する場合もある。なお、「風の翼に乗って…」の旋律は、ミュージカル「キスメット」(1953年初演)で「ストレンジャー・イン・パラダイス」と題して歌われるなど、ポピュラー音楽への編曲も多い。
 
●作曲年代 歌劇:1869~79年頃(未完)、R.コルサコフらによる補筆:1887~90年
●初  演
歌劇:1890年11月4日、ペテルブルク・マリインスキー劇場。カルル・クチェラ指揮。
●楽器編成
だったん人の踊り(管弦楽版):ピッコロ、フルート2、オーボエ2(1名はイングリッシュ・ホルン持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、グロッケンシュピール、シンバル、トライアングル、タンブリン、大太鼓、小太鼓、ハープ、弦五部(一部でチェロは2分奏)
 
 
ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844~1908)
交響組曲「シェエラザード」作品35

 
 「妃の不貞を知ったシャリアール王は彼女を処刑して以来、女性不信に。若い乙女を宮殿に引き入れて一夜を共にし、朝になれば殺害するということを繰り返していた。だが、次の花嫁にと自ら願い出たのが、聡明なシェエラザード。夜ごと不思議な物語を王に話して聞かせ、夜明けが近づくと『今日はここまで』と、結末を先延ばしに。続きが気になる王は、彼女を生かし続け、遂に千一夜を迎えた時、自らの愚かさを知り、改心する」
 当作の初演の折り、作曲者が公演パンフレットにも記したのは、こんな文章であった。色彩感あふれるオーケストレーションと魅力的なメロディを創造し続けたリムスキー=コルサコフ。先にも触れた通り、その芸術の結晶とも言うべき代表作が、「千一夜物語(アラビアン・ナイト)」を題材に44歳で書き上げた、この交響組曲「シェエラザード」であった。曲は全4楽章で構成。各々にも標題が与えられているが、作曲家は「聴き手が思い思いの想像を巡らせる手掛かりを与えたに過ぎない」と述べている。

第1楽章「海とシンドバッドの船」 最初に奏される重々しい主題は、シャリアール王と海を象徴(譜例1)、そして続けてヴァイオリン独奏がシェエラザード(譜例2)を弾く。これら2つの主題は、全曲を通じての枠組みに。大波のうねりの中を進むシンドバッドの船が描写され、語りを続けるシェエラザードと、物語に引き込まれるシャリアールの主題が、時折絡み、最後はシェエラザードが「続きは、また明日」と締め括る。
 
第2楽章「カランダール王子の物語」 シェエラザードは今宵、滑稽な王子の話を語り始める。ファゴットが奏し始める、とぼけた主題は彼の楽天的な性格を描写。中間部では、嵐が王子を襲う。
 
第3楽章「若き王子と王女」 恋人同士の語らいを思わせる、弦楽器の甘い旋律と、クラリネットが奏し始める、浮き立つような旋律の2つが軸に。中間部では、シェエラザードの主題が謳い上げられる。
 
第4楽章「バグダッドの祭、海、青銅の騎士のある岩での難破、終曲」 シャリアールの主題で開始。続くシェエラザードの主題も、彼女の語り口が熱を帯びていることを示す。フルートが奏し始める祭りの主題は、やがて熱狂に。前楽章の旋律も顔を覗かせつつ、弦楽器が刻む海の波は次第に動きを増し、遂には船を飲み込んでしまう。嵐は去り、やがて海は凪に。シェエラザードの旋律が、静かに物語の終わりを告げる。
 
●作曲年代 1888年夏
●初  演
1888年11月3日、ペテルブルクでのロシア音楽協会の交響楽演奏会。作曲者自身が指揮。
●楽器編成
ピッコロ、フルート2(1名はピッコロ持ち替え)、オーボエ2(1名はイングリッシュ・ホルン持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、シンバル、トライアングル、タンブリン、大太鼓、小太鼓、タムタム、ハープ、弦五部(ヴァイオリン独奏はコンサートマスターが担当、その他パートでも1、2、4、6名による演奏指定あり)
 
 
(C)寺西 肇(音楽ジャーナリスト)(無断転載を禁じる)
 
外山雄三写真 :(C)S.Yamamoto
 
 
 
 
 
                                     
 
 
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