大阪交響楽団 2017年度いずみホール定期演奏会 曲目解説

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第32回 いずみホール定期演奏会 11月21日(水)
外山 雄三  (C)K.Miura

第32回いずみホール定期演奏会
ベートーヴェン・秋
 
2018年11月21日(水)
<昼の部>14時30分開演 <夜の部>19時00分開演
いずみホール
 
 
「傑作の森」の一角を成す名作交響曲
 
 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)の生涯は、今日から見れば、決して長いものではなかった。だが彼は、その57歳の生涯に、為すべき全てのことを成し遂げたとも言える。
 特に30代の時期には、作曲家として常人の及ばぬ驚異的な高みに達していた−文豪ロマン・ロランがいみじくも表現した「傑作の森」の時期である。それは1803~4年の「クロイツェル・ソナタ」や「交響曲第3番《英雄》」の頃に始まり、1809年の「ピアノ協奏曲第5番《皇帝》」に至る時期を指す。そのわずか数年の間には、交響曲の「第4番」から「第6番《田園》」までをはじめ、「ヴァイオリン協奏曲」、「ピアノ協奏曲第4番」、3曲の「《ラズモフスキー》弦楽四重奏曲」、「ピアノ・ソナタ《ワルトシュタイン》」「同《熱情》」、歌劇「レオノーレ」(《フィデリオ》の旧題)その他、無数の不滅の名作が生み出されたのだった。驚くべき昂揚の時期と言えよう。
 今日ここに聴く「第4交響曲」と「第5交響曲《運命》」とは、その輝かしい時代に生み出された傑作である。
 
 
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
 
 作曲家の中には、作品一つずつに取り組み、それが完成した後に次の作品にとりかかるタイプの人もいれば、複数の作品を同時に手掛けるタイプの人もいる。ベートーヴェンは、間違いなく後者の人であった。例えばこの「第4交響曲」は1806年中盤から後半にかけての作曲だが、その時期にはすでに「第5番」のスケッチも着々と進んでいたのだ。つまりこれらは、いわば同時期に作曲されたものと言えるのである。もっとも「第5番」とは異なり、こちらは比較的順調なペースで作曲されたようだが。
 「第4番」は、彼の交響曲の中でもかなり軽快さの勝った、晴れやかな表情にあふれた作品である。それゆえこの曲を、作曲家ロベルト・シューマンが「2人の巨人(第3番《英雄》と第5番《運命》の間に立つ優雅なギリシャ乙女のよう」と評したという話は有名だ。ただし、これはあくまで「言葉の綾−」に過ぎない。実際には、優雅な曲想だけではなく、むしろ強靭な力強さ、疾風のような推進力などを充分に備えた作品なのである。
 第1楽章には、長大な序奏が置かれている。彼が交響曲につけた序奏の中では「第2番」と「第7番」と並ぶ大がかりなものだが、こちらアダージョの序奏は神秘的で、霧の中を彷徨うような、ロマン的な雰囲気を感じさせる。そのあと、ものものしく勢いをつけて飛び込むアレグロ(快速)の主部は、いかにもベートーヴェンらしいエネルギッシュな曲想である。展開部の最後では、ティンパニの長いトレモロに乗って第1主題の断片が猛然とクレッシェンド(漸強)して行き、ついにフォルティッシモに達して第1主題が再現されるのだが、この劇的な手法は、この曲の直前に作曲された「ピアノ・ソナタ《ワルトシュタイン》」第1楽章でも使用されたものであった。
 第2楽章では、特徴あるリズムが中心になる。「それは医者から見ると、人間の心臓を聴診したときの音の再現となっているのである」と指摘したのは、ジョルジュ・デュアメルだった(注)。そして第3楽章はベートーヴェン得意のスケルツォ(諧謔)であり、第4楽章には休むことなく突進するエネルギッシュな性格を持った曲想が聴かれる。
 ところで、ベートーヴェンのダイナミックス(強弱の対比)の強烈さは定評のあるところだが、この「第4交響曲」でも、その際立った例がある。特に、わずか1小節の間に最弱音から最強音までの急激なクレッシェンドで劇的な効果を上げる手法がいくつかの個所で使われているのが面白い。
 まず、第1楽章の長い神秘的な序奏から、解放的な快速の主部に入る直前、ヴァイオリンがわずか3つの八分音符で、ピアニッシモからフォルティッシモへ持って行く個所が印象的だ。その他、第2楽章の最後ではティンパニとホルンが、また第3楽章の最後の1小節前ではホルンが、そして第4楽章では開始後数十秒の個所で全管弦楽が、いずれもたった1小節の間に弱音から一気にクレッシェンドさせ、最強奏へ導く−という離れ業を演じるのである。これらをすべて楽譜通り正確に演奏するのには難しさが伴うが、指揮者とオーケストラの腕の冴えに期待しよう。

(注)デュアメル著「慰めの音楽」(尾崎喜八訳、白水社刊 90ページ)
 
作曲年代 1806年
初  演
非公開 : 1807年3月 ウィーンのロブコヴィッツ侯爵邸 作曲者指揮
公   開 : 1807年11月15日 ウィーンのブルク劇場 作曲者指揮
楽器編成
フルート1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦楽5部
 
 
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
 
 画期的な大交響曲「第3番《英雄》」を作曲していた時期から、ベートーヴェンは、すでにこの「第5番」のスケッチを始めていた。あとから発想した「第4番」を先に完成しつつも、「第5番」は着想を練りに練って、部分的には何度も書き直しながら、数年をかけて書き上げていった。所謂「労作型作曲家ベートーヴェン」を実証する好例である。しかもこの交響曲の作曲過程の中で、前述の「不滅の名曲」のうちの大半が同時に生み出されて行ったのだ。恐るべき超人的な創造力ではある。
「第5番」の冒頭、序奏なしに最強奏で叩きつけられる有名な第1主題については、彼自身が「運命はこのように扉を叩く」と語ったという話が、弟子のシントラーを通じて広まっていた。だが残念ながら(?)この話は、今日では「まゆつばもの」と見なされている。もしこの話がウソだとすると、日本で親しまれている副題「運命」(欧米では昔からこの題名は使われていない)は意味をなさぬことになるだろう。しかもこの主題のリズムは、同時期に作曲された「熱情ソナタ」や「ピアノ協奏曲第4番」などにも頻々と現れているのである。
 だがそうは言っても、この「第5交響曲」の場合、曲の第1楽章に満ちる一種の闘争的な雰囲気の楽想、そして第4楽章における圧倒的な勝利感にあふれた曲想などを聴くと、ベートーヴェンが生涯のモットーとしていた「苦悩を克服して歓喜へ」という理念が、やはりこの交響曲の中に反映していると考えてもよいように思われる。その意味では「運命」という副題も、当らずと雖も遠からず、ということになるかもしれない。
 ともあれこの有名な短い動機は、第1楽章全体を完璧に支配しているだけでなく、この交響曲全体を統一する重要な動機ともなっている。第2楽章でもいたるところにこのリズムが現われる。第3楽章でははっきりとホルンの主題に現われるし、中間部(トリオ)の各末尾の音型もこれに由っている。第4楽章でも、第2主題はこのリズムを使ったものだ。
 このように、ある一つのモティーフにより、全曲を統一したイメージに仕上げるという手法は、西洋音楽特有の「反復−展開」という法則の流れの中に位置づけられ、その後さまざまなスタイルに発展させられるものだが、それをかくも徹底して活用した作曲家はベートーヴェン以外にはいないと言ってよく、またこの「第5交響曲」はその典型的な例に挙げられるものなのである。
 第1楽章での、休みなくたたみ込む緊迫の音楽の強烈さは、比類ない。また第3楽章の最後、ティンパニが刻む例の動機のリズムとともに、オーケストラが最弱奏から最強奏まで一気にクレッシェンドし、第4楽章の堂々たる勝ち誇った世界に突入する劇的な手法も、ベートーヴェン以外のなんびとにも真似できないものであった。このフィナーレにおける昂揚感は、聴き手の心を鼓舞せずにはおかないだろう。
 
作曲年代 1803年~1808年
初  演
1808年12月22日 ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場 作曲者指揮
楽器編成
フルート2、ピッコロ1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽5部
 
       
 
        (C)東条碩夫(音楽評論)(無断転載を禁じる)
 
 
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