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2021年度 名曲コンサート 曲目解説

 
 
第117回名曲コンサート 2021年7月24日(土)
髙橋直史

 
古典の響き~モーツァルト~
 
2021年7月24日(土)
昼の部 13時30分/夜の部 17時00分 開演

 

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)
交響曲 第38番 ニ長調 K.504 「プラハ」
 
◆君の名は
 
 オーストリア中部の景勝地ザンクト・ギルゲン。モーツァルトの母アンナ・マリアの出生地にして、ヴォルフガング湖畔の風光明媚な街だ。息子モーツァルトのファースト・ネーム「ヴォルフガング Wolfgang(“狼と歩む者”の意で強さの象徴)」は、ヴォルフガング湖の名の元である聖人ヴォルフガングによるもの(因みに、モーツァルトの出生時におけるカトリックの洗礼名は Johannes Chrysostomus Wolfgangus Theophilus Mozart)。言うなれば、ヴォルフガング湖は作曲家モーツァルトの名の由来に通じる地名でもある。そのモーツァルトが1786年末に完成した交響曲第38番「プラハ」。この「プラハ」の名(愛称)もまた地名由来だ。
 この交響曲完成の半年余り前の5月、ヴィーンで初演された貴族権力を諷刺したオペラ・ブッファ(喜歌劇)の「フィガロの結婚」は、あえなく9回の上演で打切りに。しかし、捨てる神あれば拾う神ありで、ハプスブルク帝国の支配下にして愛郷心や反骨精神が強かったプラハでの1786年末の初演は空前の大当たり。翌1787年1月にモーツァルトはプラハに招かれ、持参した新作交響曲(当第38番)を当地で指揮初演したのだった。
 曲は、急・緩・急の3楽章構成。第1楽章はトゥッティ(総奏)による荘重な序奏に始まり、打って変わって第1ヴァイオリンが爽快なシンコペーションのリズム音型を奏で主部の幕開けを告げる。これに続くホルンの内声に「フィガロの結婚」の『もう飛ぶまいぞこの蝶々』(フィガロの名高いアリア)の一節をはめ込んだのはモーツァルトのちょっとした遊び心だろうか。第2楽章では主題の中に半音階を配し深みある歌謡性を見せる。次いで「フィガロの結婚」の『早く開けてよ』(伯爵夫人ロジーナの部屋に閉じ込められたスザンナとケルビーノによるパニック・デュエット)の冒頭モティーフを用いたオペラの分身的魅力を振りまく颯爽痛快な第3楽章が続く。
 古来よりヨーロッパの十字路であり続けてきた街プラハ。モーツァルトと正に十字路の如く交歓しその音楽を愛したプラハの名ほど、この交響曲の愛称に相応しいものはないだろう。
 
●作曲年代 1786年(12月6日完成)
●初  演
1787年1月19日、ノスティツ伯爵劇場(現・スタヴォフスケー劇場)、モーツァルト自身の指揮
●楽器編成
フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部
 
 
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)
交響曲 第40番 ト短調 K.550
 
◆道頓堀の雑沓で
 
 モーツァルトが宮廷音楽家として仕えるも、どうにも馬が合わなかった故郷ザルツブルクの大司教コロレド。度重なる不協和音の末に訣別し、モーツァルトがハプスブルク家の帝都ヴィーンに定住したのは1781年から91年、35歳の死に至る生涯最後の10年間だ。この地でフリーランサーとして立ち、1784年にはフリーメーソン入信、そして啓蒙君主であったヨーゼフ2世の恩顧もあり1787年に宮廷作曲家の地位を得るモーツァルト。その翌1788年、フランス革命を目前にして交響曲第39番、40番、41番「ジュピター」といういわゆる“三大交響曲”が、わずか6週間で立て続けに完成される。
 その2年前の作なる第38番「プラハ」が当時の交響曲の在り方である聴衆ための娯楽的な機会音楽の体裁を保つものだとすれば、“三大交響曲”は俄然一皮剥けた型破り形。もはや単なるサーヴィス精神を超えた、我が道をゆくが如く極めて自律した内実をもつ作品群だ。楽器編成としてクラリネット無・有の2つの稿が存在する交響曲第40番は、ト短調というペーソス的な調性(第25番も同じ調性)によって異彩を放ちつつ、次代のロマン派的な予兆と古典派ならではの均整感によるハイブリットな全4楽章の作(急・緩・メヌエット[些急]・急)として仕上げられた。
 ヴィオラによる心さざめくような伴奏に乗り、ヴァイオリンが〝ため息〟と形容される短2度下向音型(Mi♭↘Re)に基づいた憂いある主題を奏で出す第1楽章。第2楽章では優しい詩情に時折翳りが交錯し、仄暗く切迫した空気感をもつ第3楽章メヌエットへと続く。そして悲劇的パトスに満ちた音調で幕開く第4楽章。その主題は、文芸評論家の小林秀雄が著作『モオツァルト』の中で、若き痛切な経験 ― 或る冬の夜に道頓堀の雑沓の中で突然頭に鳴った(要略) ― と記した旋律だ。楽章半ばの展開部では、デモーニッシュと呼びたいほどの転調、バロック時代への憧憬を感じさせるポリフォニー(多声音楽)書法によった入念な複層的表現等、モーツァルトの縦横無尽な楽才が余すことなく刻印されている。
 
●作曲年代 1788年(7月25日第1稿完成、クラリネット入り第2稿は時期不明)
●初  演
不明(ただし今日ではモーツァルトの生前に行われたとする説が有力)
●楽器編成 (第1稿) フルート、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、弦5部
(第2稿) クラリネット2追加
 
 
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)
交響曲 第41番 ハ長調 K.551 「ジュピタ−」
 
◆再び、君の名は
 
 作曲家サリエリによる毒殺という歴史的ゴシップを軸にフィクションを交えながらモーツァルトの赤裸々な後半生を描き、大反響を呼んだ映画「アマデウス」(1985年日本公開、フォアマン監督)。この映画名は、言うまでもなくモーツァルトのミドル・ネームから採られたものだが、前掲(交響曲第38番「プラハ」の解説)のモーツァルトの洗礼名に「アマデウス Amadeus」という記載はどこにも見当たらない。種を明かせば、モーツァルトの洗礼名の1つ「テオフィルス Theophilus」(聖人の名にして、ギリシア語起源で〝神に愛されし者〟の意)をラテン語風にしたものが「アマデウス Amadeus」という訳だ(もっとも、モーツァルトは生前、署名に際し「アマデオ Amadeo」や「アマデ Amade」などを専ら使っていたが)。
 取りも直さず、ギリシャ語にルーツを辿れるミドル・ネーム。その“神に愛されし者”こと「アマデウス」の名と奇しくも“神繋がり”なのが、モーツァルト最後の交響曲にして古代ローマの“主神ユピテル”に由来する「ジュピター」の愛称がついた交響曲第41番。この「ジュピター」という愛称は、18世紀末頃からイギリスで音楽興行師として頭角を現したザロモンによる命名とされるが、(アメリカの音楽学者ザスローらが指摘する)この交響曲の音楽上の「神的な」特質を見抜いてのことだとすれば、それこそザロモンの命名は今風の〝神対応〟と言えようか。
 曲は、急・緩・メヌエット[些急]・急の4楽章構成。華麗なトランペットとティンパニの響きを伴った雄々しい楽想に始まる第1楽章は、あたかも偉大なるものの登場を告げるが如くだ。夢想的な主題が牧歌風に綴られる第2楽章、そして艶やかで躍動感に満ちた第3楽章メヌエットへ。第4楽章はグレゴリオ聖歌由来の「ジュピター音型」と呼ばれる4音モティーフ(Do↗Re↗Fa↘Mi)に始まり、精緻なポリフォニー(多声音楽)の手法を駆使しつつ音楽が推進する。5つの声部が織りなす名高いコーダ(終結部)の何と雄弁にして神がかり的なこと。それは、オペラ終幕の大団円的な重唱アンサンブルや、アマデウスならぬ“アマテラス”の燦然たる太陽の輝きを神々しく想起させるほどに。
 
●作曲年代 1788年(8月10日完成)
●初  演
不明
●楽器編成 フルート、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部
 
 
(C)村田英也(音楽評論家)(無断転載を禁じる)
 
髙橋直史写真 撮影:老川良一
 
                                
 
 
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